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【必然ロマンショー】❥自覚❥②
男女の性別を越えて、α性である聖南の中枢に間違いなく入り込んできた葉璃。
舞台上でその可憐な姿に見惚れ、見詰め合った数秒で恋に落ち、その時から葉璃は聖南を虜にしていた。
これはきっと運命だ。
初めの予感は、間違っていなかった。
性別の違いなど簡単にどうでも良くなるなど、運命以外に何がある。
『誰がなんと言おうと俺のものだ』
聖南の腕に大人しく収まっている葉璃の後頭部にキスを落とし、佐々木を一睨みしておく。
「分かってると思うが、開花させた俺にすべての権限がある。 α性とΩ性の関係性と必然性は何があろうとも消えないし、壊せない」
「……………………」
「二人きりにしてくれ。 開花したばかりの体を傷付けるような真似はしないから。 ただ…話がしたい」
「……あなたは出番があるでしょう」
「後でいくらでも頭を下げてやるさ。 俺が優先すべきは今この時間だ」
そう言い放ち、聖南は葉璃をギュッと抱き締めた。
力が強過ぎたらしく、葉璃が微かに呻いたが離れられなかった。
愛おしい。
この体も、顔も、声も、葉璃の全身が。
「……非常に不快です。 私はあなたに差し上げるために葉璃を守ってきたのではないのに…」
尚も睨み付けてくる佐々木の視線は、葉璃に本気だった事を窺わせるには充分だった。
佐々木に懐いている様子の葉璃が、よもや出会ったばかりの聖南に欲情したなど信じたくないのかもしれない。
気の毒だとは思うが、葉璃の性が聖南によって開花したのは紛れもない事実だ。
「お前も薄々分かってたんだろう? もしかしたらΩ性じゃないのかと。 それを今日まで開花してやれてないという事は、そういう事なんだよ」
「不快です。 本当に。 ……葉璃、体を奪われそうになったらすぐに逃げなさい。 足は速いでしょう」
「………あの…二人ともさっきから俺の事無視してるけど、一体何の話をして…」
早く二人きりになりたいあまり、佐々木との対話を優先してしばらく葉璃の存在を蔑ろにしてしまっていたせいで、またも腕の中から可愛く見上げてきた。
キスの影響か、その瞳が濡れていて頬がほのかに色付いている。
『───畜生。 かわいいな』
葉璃の瞳を見詰めると、嘘ではなく吸い込まれそうになる。
思わずその唇を奪いに行こうとしたが、佐々木に「ゴホン」と咳払いされて止められた。
「聖南さん、葉璃はこの通り初な子です。 絶対に無理強いだけはしないでください。 お願いします」
「こいつがまだ初ものだというのはにおいで分かる。 今までが今までだから信用出来ないかもしれないが、傷付けるような真似はしないと誓うよ」
こんなにも愛おしいと思っているのに、どうやったら無理強いできるというのだ。
性が判明したという説明を聖南も佐々木もしてやらないせいか、困惑しきりな葉璃がやたらと聖南を見上げてくるので、たまらずギュッと抱き締める。
体を抱く度に思うが、やはり葉璃は聖南が初めて体感するほど小柄で華奢だ。
「葉璃。 私が帰って大丈夫? 聖南さんの事が嫌だと思っているなら、今ここで返事をしてやりなさい」
「おい、そんな事を……」
もちろん、佐々木が問うた葉璃の意思は大事だ。
腕の中で大人しくしている葉璃は、聖南が行かせまいと強く抱いているせいで離れられないのなら、今この場で「離して」と拒絶されたら何も言えない。
まだ二度しか顔を合わせていない聖南から熱烈な気持ちを伝えられて、新たな性を目覚めさせられて、惚れさせられようとしているのだから──。
『……普通は逃げるよな』
もし聖南が葉璃の立場だったら、性の導きなど関係なく、気味悪がってすぐにでも走り去るだろう。
たとえどんなに後ろ髪引かれても、二度しか会っていない者相手に心を開くはずがない。
今夜もお別れするしかないのかと諦めかけたその時、胸元の葉璃が佐々木を見て確かにこう言った。
「…………もう少しだけ、お話してみたいです。 ……俺なんかで良ければ…」
「……っはる……!」
そうか、戸惑いも超越したか。
聖南は分かりやすくニヤついた。
やはりα性とΩ性の結び付きは、強く気高いものなのだ。
どうしよう、どうしようと迷っていても、運命には決して逆らえない。
「…………失礼します。 今宵は私の家に来る予定でしたから親御さんへの連絡は特に不要。 どうぞごゆっくり」
佐々木はそう言うと、名残惜しげにチラと葉璃を見た後ゆっくり踵を返し、去って行った。
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