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【必然ロマンショー】♡自覚♡
先程の石段に腰掛けた聖南に、手を握られている。
密着するように腰を抱かれていて、葉璃は緊張と動揺でまったく聖南の顔を見られていない。
「名は、はると言ったか? 漢字はどう書く?」
「名前ですか…? 葉っぱに、瑠璃の璃です」
「それだと「はり」にならないか」
「母が間違えたまま出生届けを出してしまって…」
「そうか。 でも………葉、璃、……見た目はいいぞ」
落ちていた木の枝を使って、地面に葉璃の名前を書いた聖南は横顔さえ美しい。
染色しているのか、薄い茶色の髪が頬に落ちている様も妙に色気があって、つい見惚れてしまう。
葉璃の名前の上に、聖南は自身の名前も書いた。
聖南
葉璃
そして、「これに名字を付けたらこうなる」と名字を付け足して葉璃を振り返り、極上の笑顔を向けられた。
日向 聖南
日向 葉璃
───っ!
こんなにも上質な色男が、男である葉璃を愛してくれるはずがないと、見惚れてしまった自分を戒めるように頭を振る。
今こうして同じ名字に浮かれているのは、何かの間違いだ。
キスをしてきたのも、あれは春花の面影を探していたのではないかと、葉璃は思っている。
「あの……聖南さん、……俺がここに残ったのは、さっきの求婚の事を話したくて」
「あぁ」
「聖南さんの想いが本物だという事、春花にきちんとお伝えします。 どうか安心してください」
「……え? はっ? ……春花ってのは葉璃の姉だろう? 伝えなくていい。 葉璃は何か勘違いしてないか」
「………いや、でも……」
聖南は女たらしで、これまでも女性しか相手にしてきていないようだから、たとえ性を開花させたとしても相手が葉璃ではどうにもならない気がした。
きっと、今だけの、一時の気の迷いだ。
「聖南さんのお相手に相応しい方は、その……たくさんいらっしゃいます。 俺はΩ性だって分かった事だし、別の方を…」
「何? それは、葉璃も別の奴と番に、という事か?」
「………はい。 そうしないと、Ω性は生きていくのが大変だって聞きましたから」
葉璃がβ性だと信じていたかったのは、Ω性の特徴である発情期がとても嫌だったからだ。
その発情期というものは定期的にやってきて、番が居ない限り一週間もの間、体の不調と欲情にまみれた生活をしなければならないらしい。
それはとてもじゃないが仕事など手に付かないほどだそうで、だからこそΩ性はα性に頼るしか生きる術がない。
葉璃は思っていた。
自分が万が一Ω性だったら、まったく知り合いの居ない遠くの町に行こう、と。
知っている者達に迷惑を掛けたくないからだ。
「それを俺が許すとでも? 葉璃は俺と番になるんだよ。 すでに俺達の神経は深い所で結び付いている。 どんなに拒んでも、抗えない」
「でも………」
真っ直ぐに見詰められて、その瞳を見詰め返せない葉璃は下を向いた。
女たらしでも、聖南はとてもいい男で優しそうだ。
願わくば聖南のようなα性の者に出会えるのが理想だが、こんなに素敵な見目の者はそうそう居ないだろう。
けれど、気の迷いにしては熱い台詞を次々と言ってくる情熱的なところに、葉璃は早くも惹かれ始めている。
出会って間もない、恋など知らない葉璃をも虜にしてしまう聖南の魅力が少しばかり恐ろしい。
「でも、が多いな。 そんな話はしたくない。 俺達の未来について話したい。 葉璃の事もたくさん知りたいし、俺の事も知ってほしい」
これは果たして自分に言っているのかと不安を覚えるほどの熱い台詞に、胸が締め付けられそうだ。
握られている手に力を込められ、下を向いていた葉璃は勇気を出して聖南を見た。
「……聖南さん、……それは、一時の惑いかもしれませんよ…?」
「最初はそうかと思ったよ。 俺は女しか知らねぇから、白状すると、半信半疑だった」
───聖南さん…。
嘘のない言葉に胸を打たれた。
今までの印象通り、正直者なところにまたも心がグラついたものの、半信半疑ならば尚さら早まっては駄目だ。
「やっぱりそうですよ! うん、俺には聖南さんはちょっと不相応過ぎます! 聖南さんが俺の裸を見たらオエッてなるかもしれない! 聖南さんは、きちんと女性と番になるべき…」
「あぁ? また話が戻ってる。 なんでそう別の奴とくっつけたがるんだよ。 ……あ、もしかして葉璃はアイツと番になりたいのか? だから俺を他所にいかせたいんだろう?」
「アイツって…佐々木さん?」
「名など知らん」
「…怒らないでくださいっ。 そりゃあ、佐々木さんの事は好きですけど…」
佐々木の名前を出すと、これみよがしにムッとされた。
聖南が男である葉璃に走ろうとするのを食い止めたくて、必死だった。
まだ出会って間もなく、葉璃を開花させたからと言って責任を感じる必要はないと伝えたかった。
「なんだと? ……二人の想いが通っているのに、何故まだ体を繋げていないんだ」
「それは…っ。 佐々木さん、せっかく俺の性を確かめようとしてくれたのに、口付けしたら自然と体が…」
「口付け? おい、アイツと口付けしたのかっ?」
「はい、しました……んんっ!」
声を荒げた聖南が、二週間前の事を思い出して視線を外した葉璃の華奢な顎を持ち、唐突に口付けてきた。
「何もされていないと思っていた」
言いながら押し当てられた唇が熱くて、頬に触れた指先が怒りを伝えてくる。
───何故、何故、何をそんなに怒ってるの、聖南さん…。
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