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【必然ロマンショー】❥繋がり❥※
聖南は、今日予定していたものではない歌を歌唱した。
好きな人への熱烈な恋心、もっと求めてほしい、振り向いてほしい、愛おしい体を抱き締めたい……そんな求愛の詞が並ぶ歌に変更した。
葉璃が、聖南のこの声で想いを受け取りたいというのなら、歌人らしく、歌で愛を届けたいとの思いからだ。
『──なぁ葉璃、…恋とは突然降ってくるものだ。 俺と葉璃の性がピタリとハマったのも、惹かれ合ったのも、抗えない必然なんだよ』
胸元を握って険しい顔をした葉璃が、聖南を客席から見詰めている。
舞台上からその様子を見ていた聖南は、葉璃の心が聖南に落ちた事を悟った。
なぜなら、歌唱中盤辺りからむせ返るほどのフェロモンがキャバレー内に立ち込め始めたのだ。
ここに居るのは位の高いα性の者ばかり。
葉璃の隣に腰掛けた男が早くも理性を失いかけていて、その肩に触れようとしていた。
前後の客達からも、香りの元である葉璃へジロジロと熱い視線を送っている。
『こ、これは大変だ…! 発情している!』
性の開花、そしてたった今聖南への恋心が目覚めたらしい葉璃の発情期が、それらによって一気に誘発されたらしい。
何とか最後まで歌い切った聖南は、たくさんの拍手を浴びながらそのまま舞台を降り、速やかに葉璃の元へ向かう。
葉璃は胸元を握って瞳をギュッと瞑り、歌の途中から聖南を見てくれていなかった。
否、見られなかったのだろう。
「葉璃、出るぞ。 …俺にだけ漂わせろと言っただろ」
「え……? …わわっ……!」
どうも苦しそうな葉璃を抱き上げて、成田と支配人に「またな」とだけ言うと聖南は家までの道を駆けた。
この凄まじいフェロモンは、聖南だけではなく他の者達まで狂わせてしまう。
α性の理性のタガが外れるのだ。
全神経を持っていかれ、正常な判断が出来なくなる。
だからこそ、遊び人を自負する聖南は気を付けていた。
今でさえ膝から崩れ落ちそうなほどなのだ。
我慢出来ずに道端で襲い掛かってしまいそうになるのをやっとの思いで堪えて、苦しそうな葉璃を急いで寝床に横たえる。
「噂以上だな……すごい香りだ…」
自身の体の変調に困惑し、初めての強い発情に葉璃はひどく切ない顔を浮かべている。
苦悶のその表情すら目に毒だった。
そんな聖南も、瞳が半分しか開けられない。
葉璃も苦しいかもしれないが、聖南も欲望と戦わなければならず表情が歪んだ。
「聖南、さん……っ」
葉璃に着物の袖を引っ張られ、己と戦い続ける聖南はクッとさらに奥歯に力を入れた。
「なんだ、水かっ? 今持ってく……」
「だめ、離れて行かないで…! 聖南さ、ん…なんとかして……苦しい…っ。 これ、どうしたら治るの…!」
「なんとか…なんとかしたいんだが出来ないんだ!」
「どうして……聖南さんっ、……苦しい…苦しいよぉっ……体が熱い…っ、早く、治して……」
開花したばかりの体を傷付けるような真似はしない。
聖南は、佐々木と葉璃にそう言ってしまった。
ほんの少しの油断で葉璃の体を貪ってしまうのが分かっていて、苦しそうな葉璃を前にしても簡単には手は出せない。
葉璃の事はそんなに容易く抱いてはいけない……それがたとえ発情によるフェロモンに脅かされても、葉璃が聖南を欲して望んでくれない限り──。
袖を掴んだまま離さない葉璃が、瞳に涙をたくさん溜めて苦悶に耐え忍ぶ聖南を捉えた。
刹那、心臓が「ドクン…」と大きく脈打った。
「…うぅっ、聖南さん…っっ! お願い、たすけ……て…っ」
「葉璃……! だ、駄目だ、俺を誘うな! 傷付けたくない! なんとかするというのは交わるしかないんだ!」
「い、いいっ……聖南さんなら、何されても、いい…! 俺のこと、…っ気持ち悪くない、なら……っ、聖南さん…! 俺はあなたに、恋をした、っから…!」
『…………!!』
眉根に皺を寄せ、息も絶え絶えにそう言った葉璃が聖南に弱々しく腕を伸ばしてきた。
「……あ、…んっ…!」
我慢出来なかった。
横たえた葉璃に覆い被さった聖南は、吐息を溢し続ける小さな唇に激しく口付けた。
舌を絡ませながらすぐに葉璃の衣服を取り去ると、直視出来ないほどの美しい肌が視界に入り、息を呑む。
それでも唇を離せなくて、膨らみのない胸をまさぐった。
すべすべした滑らかな肌をこれでもかと撫で回す。
『たまんねぇ…! なんて気持ちの良い肌なんだ!』
本当は自身も裸になって肌を寄せ合ってみたかったけれど、この時の聖南にその余裕は無かった。
手のひらであらゆる部位を撫でて、唇から少しずつ下へ移動して愛撫していった。
視界が揺らぐ。
セックスの手順すら危うくなってくる。
首筋、鎖骨、胸元、腹、二の腕にまで鬱血の痕を残した。
無我夢中で葉璃の肌を追う。
ついに聖南には未知である葉璃の性器に唇が辿り着いたが、何の躊躇いもなくそれを口に含んだ。
『気持ち悪くなどない、かわいくてたまらない…!』
葉璃の不安を煽り、聖南の戸惑いを生んだ性別の枷など呆気なく消え去った。
本能が喜んでいる。
葉璃に触れているだけで指先が震える。
香り立つ濃厚なにおいに、やがて聖南の理性は飛んだ。
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