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── 一月某日 ── Ⅸ 仲直り②

9♡  背中にしがみつくのもキツくなってきた俺は、エッチを始めて一時間くらい経った頃とうとう飛びかけたんだけど…。 聖南に顎を舐められて、耳たぶを甘噛みされ、いい声で「はーる」って呼ばれてすぐに起こされてしまう。 「ふっ…かわい。 なぁ、葉璃ちゃん。 再来月…高校の卒業式だろ」 「うん、そ、だよ…?」 「それに合わせて曲書いたんだ。 末から録り入るからそのつもりで」 「えっ? ど、どういう…ぅぅっ! ちょっ、せなさ、ん…! そんな、大事な話は…素面のときに…言って…!」 「葉璃は素面だろ。 俺はシャンパン入れたけど」 「へっ!? うそ、でしょ…!? いつの、間に…!」  こうして度々、重要事項をエッチの最中に思い出したように言う聖南が信じられない。  大事なレコーディングの件は、もっと頭がシャキッとしてる時に話してほしいんだけどな…。  しかも聖南、シャンパン飲んだっていう事はまだまだヤル気だ。  聖南は苦手なお酒を少し体に入れると、何故か元気いっぱいになって長持ちするらしい…。  ──え? 何がって、………アレが、だよ。 「葉璃のスケジュールは確認済みだ。 なぁ葉璃、夜は長いぞー♡」 「ちょっ……っあぁぁっ……!」  深くまで貫かれたと同時に背中が震えて、俺と聖南の腹を汚した。  聖南の極上の笑顔は、今は見ていられない。  今日の俺は何時間後に解放してもらえるのかなって時計を見ると、現在まだ夜中の一時だ。  荒く呼吸する俺は、聖南の背中越しに掛かる時計を呆然と眺めて「うぅ…」と呻いて聖南にしがみつく。  もういっそ、意識を飛ばしてたい。  何もかも許すから、ヤキモチなんか焼いてごめんなさいって謝るから、朝までコースは勘弁してください……聖南、さん…。 「俺のかわいー葉璃ちゃん。 妬いてくれてありがと」  しがみついた俺に、聖南はまたエッチな声で囁いて耳を食む。  それから聖南はマーキングするかのように俺の体にたくさん痕を残し、俺を揺さぶって愛しまくった。  ……充分分かったよ、聖南。  ごめんなさい。 俺が間違ってた。  聖南の欲望の対象が今や俺しか居ない事なんて、これだけ愛されたら信じずにはいられないよ。  ね、だからもう、許して……。 「葉璃ー、葉璃ちゃーん」 「……………ん…」 「体きれいになったぞー。 ベッド行こうなー」 「…ん、んん……っ?」 「久々に葉璃が飛んだの見たわ。 そんな激しかった?」  え……俺、飛んでたの…?  去年より格段に体力がついた俺は、朝までコースでも意識が飛ぶ事ってほとんどなくなってきてたのに。  まぁ、…聖南とのエッチはいつも長いというかしつこいから、ヘトヘトにはなるんだけどね…。 「よいしょっと…」  バスルームから聖南に抱き上げられてベッドに横になった俺は、カーテンの隙間から差し込む朝陽に目を細めた。  今何時なんだろって時計を見ると六時を指していて、ギョッとなって聖南を見る。 「わっ、もう六時じゃないですか!」 「そうそう。 別現場だけど俺も葉璃も十三時入りなの把握してたから頑張っちゃったぜ」 「が、が、頑張り過ぎですよ…!」 「葉璃充電七割っつーとこかな。 ほんとはあと二時間くらいやりたかったけど、葉璃飛んじまうし、少しは寝ないとだし? 妥協したよ」 「八時までやる気だったんですか…!?」  お、恐ろしい…!  聖南の底無しの性欲は一体どこから湧くんだろう。  ほんとに俺は、くだらないヤキモチ焼いちゃってたんだな…。  こんなに長い時間俺を愛してくれる聖南が、他の人に目移りするはずないのにね。  俺ってバカだ…一人でぐるぐるする癖、ほんとに治したい…。 「俺に制限なんかない。 時間が許すんなら葉璃のアソコが擦り切れるまでやれるよ?」 「……………!?」  飄々とした口調で、非の打ち所のない美形がさらりとそんな怖い事を口にしている。  聖南はそうだろうね……忙しくて良かった。 「葉璃、俺の葉璃への愛を疑うなよ。 何があっても、俺は葉璃の傍から離れない。 葉璃も同じ気持ちでいてよ」 「……………うん。 分かってる…」 「「でも」とか「だって」が付くんだろ、ネガティブ葉璃ちゃんは」 「…………………」 「ぐるぐる葉璃を愛してる俺は、たとえ葉璃がどこへ逃げても追い掛ける。 …あー…でも葉璃ちゃん足速えんだよな…俺これでも鍛えてんのに追い付けなかったもんな…」  横になった聖南がぎゅっと俺の体を抱いて、足を絡ませてくる。  足先が冷たくて逃げようとしても、鍛えてるという言葉通りガッチリ捕らわれていて少しも動けない。 「そんな事言って……追い付いたじゃないですか、聖南さん」 「あれは坂道で葉璃が減速したからだろ。 平らな道でスピード落ちなかったら俺は絶対に追い付けなかった。 なんでそんな足速ぇの? 昔から?」 「そうですね…かけっこはいつも一番でしたけど…」 「すばしっこいしな。 追い掛けながら思ってたんだよ。 葉璃、猫みてぇって」 「猫………」 「顔も犬か猫かで言ったら猫タイプだしな。 かわいーんだよなぁ、この顔〜〜〜♡」 「……むむむむっっ!」  聖南の大きな両手がほっぺたをムニムニムニムニっと押してきた。  ひとしきり撫で回して俺を可愛がった聖南は、満足したのか最後にチュッと鼻先にキスをしてきて、また俺を抱き枕に見立ててぎゅっと抱かれる。  ていうか、なんでこんな元気なの、聖南…。 「葉璃、もう許してくれた? ぐるぐる終わった?」 「え………あ、はい。 それはもう」 「そか。 良かった」  ふわりと笑う聖南の心からの安堵の声に、激しく嫉妬していた自分が恥ずかしくなった。  俺がぐるぐるしてたら聖南もぐるぐるするんだってことすっかり忘れてたし、「良かった」と微笑む恋人を信じてあげられなかった俺はほんとにダメな奴だなって思う。 「聖南さん、……好きです」  せめて、聖南が安心するように「ごめんね」の意味も込めて言ってみた。  すると、聖南からの抱擁が一際強くなって息苦しくなる。 「俺も葉璃好き♡ ……そんなかわいー告白されたらやりたくなんじゃん。 もう一回しよっか」 「……っっ! それはごめんなさい!!」  えーなんでーと唇を尖らせる聖南に盛大に謝った後、俺はすかさず寝たふりを決め込んだのは………言うまでもない。

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