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【もしも聖南と葉璃が赤ちゃんを預かったら】2
なんでそうなるのっ?
ドラマの一場面みたいに驚いてる聖南に負けじと、俺もつい赤ちゃんを抱く腕に力を込めてギョッとした。
「何を言ってるんですか! 俺が産んだんじゃないですよ!」
「えっ? だって現にここに居るじゃん、ベイビーが」
「仮に俺が産んだとしても一気にこんなに成長するはずないでしょ!」
「あぁ、……そうだな」
説明も聞かないで、すぐにそんな妄想しちゃうなんて信じられない。
……男の俺が、産めるわけないじゃん……。
しかも聖南、一瞬嬉しそうに破顔したのを俺は見逃さなかった。
家庭を持つイメージが湧かなかった、子どもを愛せる気がしないと言ってた聖南だけど、実は…………なのかな。
「葉璃が産んだわけじゃないとすると、どしたの、その子」
「……林さんのお姉さんのお子さんです。 お姉さんはシングルマザーらしくて、体調が悪くなって病院に行きたいけど親御さんも仕事で預けられない、近くに頼めそうなお友達も居ない、みたいで……」
「そうなんだ。 てか一晩預かるの?」
「いえ、十時過ぎにはお姉さんの親御さんが帰って来るので、それからなら預けられるそうです。 林さんがお姉さんに付き添ってて、終わり次第お迎えに来ます」
「へぇ……」
経緯を説明すると、聖南は腕を組んで少し屈んだ。
「名前は?」
「りゅうた君です」
「あ、男の子? 女の子かと思った。 かわいーツラしてんなぁ。 俺の事見ても泣かねぇの? 怖くねぇ? かっこいいお兄さんに見えてっか、りゅうた?」
「……聖南さん……絡み方がヤンキーですよ」
「誰がヤンキーだ、誰が」
「聖南さん」
「こんにゃろ♡」
りゅうた君の背中を指先でツンツンしてる聖南が、なんだか楽しそうだ。
抱っこしていい?と聞かれた俺は、泣いちゃわないかなと思いつつ聖南に託してみる。
でも、そんな心配は要らなかった。
「きゃっ! きゃっ! うーっ!」
「おぉっ。 元気だな、りゅうた! ほーれ」
「きゃはははっ」
俺よりも高い位置で抱っこされたりゅうた君のテンションが、否応なしに跳ね上がる。
たかいたかいをしている聖南と、手足をバタつかせて喜ぶりゅうた君。
なんていい光景なんだろう。
聖南がパパになるなんて想像もしたこと無かったけど、今まさに目の前で繰り広げられてるのは「幸せな家族」の画、そのものだった。
「すげぇ、人見知りしねぇのな」
「そうなんですよ。 俺にもすぐに慣れてくれて……お母さんじゃないからずっと泣いちゃうんだろうなと思ってた。 でも……聖南さんが帰って来てくれて心強いです」
りゅうた君とひとしきり遊んでいた聖南は、部屋中を抱っこして歩き回ったあと床におろして好きにハイハイさせた。
そろそろミルクの時間がくる。
グズりだしたらミルクを作って、飲ませて、そのあと抱っこして背中を擦ってゲップさせるっていうのを林さんの実演付きで習った。
念の為、バッグから哺乳瓶と粉ミルクを出してキッチンにスタンバイしておく。
聖南がソファじゃなくてフローリングに直に腰掛けてるのを、俺は初めて見た。
すぐに理解を示してりゅうた君の面倒を見てくれてる聖南には、精神的にすごく助けられてる。
だって……赤ちゃんを預かるなんて、俺だけじゃ不安でいっぱいだったんだもん……。
「赤ん坊の世話なんてした事無えんだけど、なんか葉璃はやりこなしそうだよ」
「えっ? 何でですか?」
「なんつーの? 新米ママって感じ」
「…………?」
「りゅうた抱っこしてるの、めちゃくちゃ馴染んでたぞ。 マジで俺らの子どもかと思ったし」
「聖南さん……オメガバース読み過ぎです」
「いいじゃん、妄想するくらい」
やたらと俺が産んだ事にしたがる聖南に、キッチンから苦笑を送った。
動き回るりゅうた君を眺めてる聖南の横顔は、俺には間違いなく「パパ」に見えるよ。
聖南は、愛せないんじゃない。
愛し方が分からないだけ。
もし俺がほんとに子どもを産める体だったら、聖南はきっと……すぐに「赤ちゃん欲しい」って言うんだろうな。
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