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【もしも聖南と葉璃が赤ちゃんを預かったら】3
聖南はマメな性格で、俺にもいつも甲斐甲斐しい。
気の利くところもいかんなく発揮されていて、りゅうた君の相手はほとんど聖南がしてくれた。
俺がシャワーを浴びてる間も、ずっとりゅうた君を抱っこして動き回ったり、外を見せてあげたりしてたみたい。
帰宅してすぐだったはずの聖南は何の抵抗も無く受け入れて、しかもものの数分でりゅうた君と仲良くなってて凄いよ。
社交性というものは、全年齢対象なんだってことを改めて知る。
俺達に子どもが居たらこんな感じなのかなって……りゅうた君をあやす聖南に感化された俺は、ぼんやりとそんな事を考えていた。
「葉璃ー」
「はい?」
「オムツとか替えなくていいのか?」
「あぁっ、そうだ! 替えましょう!」
ミルクより先にやる事があった!
林さんからも、もし良ければ替えてあげてほしいって言われてたんだった。
今のオムツは少々の事じゃ漏れないから、不慣れでもテープさえ付けてれば大丈夫だって。
それに触った事がないから、替えてみようにも何の事を言ってるのかまったく分からない俺をよそに、聖南はやる気満々だ。
「俺やりたい。 やってみていい?」
「え!? お願いしちゃっていいんですか?」
「うん。 でもどうやんの?」
「わ、分かんないです……」
だよなぁ、と呟いた聖南が、林さんからりゅうた君と共に預かった鞄をゴソゴソし始める。
オムツを探し当てて手に取ったはいいけど、広げてみたら縦長でどっちが前だか後ろだか。
聖南も首を傾げてまじまじと広がったオムツを見ていて、まるがそれが未知との遭遇って感じの妙な表情をしてたから、つい可笑しくなって吹き出してしまった。
「ぷっ……!」
「なに、なんで笑うんだよ」
「い、いや……っ、聖南さんとオムツが似合わな過ぎて……! あははは……っ」
「葉璃の笑いのツボが分かんねぇ……」
珍しく三白眼になって立ち上がった聖南の表情も、また笑えた。
窓辺でちょこんと座って外を見ているりゅうた君のもとへ、聖南はゆっくりと近付いていく。
俺が新米ママに見えるなら、ものの数分でりゅうた君の心を捕らえた聖南も立派な新米パパだ。
「ほーら、りゅうた。 パンツ替えようなぁ」
「う〜♪ うきゃっ」
「可愛いなぁ。 あっという間に聖南さんのこと大好きじゃないですか、りゅうた君」
「だろ? 俺って生粋のアイドルだからな〜。 困っちまうな〜やっぱ万人に好かれるオーラが出まくっ……」
「うんうん、聖南さん素敵ですっ。 分かりましたから今はオムツ替え優先してくださいね」
軽々とりゅうた君を右腕だけで抱っこすると、ふふんっと得意気に左腕を広げて演説?を始めた聖南。
長くなりそうだから早々と切り上げさせて、オムツをヒラヒラして見せた。
聖南がカッコよくてみんなに愛されてるのはもう充分知ってるし、俺はそんな聖南が大好きだよ。
でも今は育児優先。
俺も聖南も、この先こんな体験出来ないと思うから……って思いで急かしたのに、聖南は何やらムムッと唇を尖らせて不満を言い出した。
「あっ、これが世に言う夫が抱く赤ん坊への嫉妬ってやつだ! 今の絶対そうだ!」
「なんですか、それ?」
「夫がな、嫉妬するんだよ。 今まで独占できてた奥さんを赤ん坊に取られたって感じるんだ。 それで寂しくていじけた夫が浮気して〜みたいな街角インタビューを、今までどれだけ見てると思って……!」
あぁ、……そのインタビューならお昼の番組にゲスト出演した時に俺も見た事ある。
赤ちゃんが産まれると、奥さんは赤ちゃんにかかりっきりで旦那さんを蔑ろにしてしまう。 ただそれは母性本能が勝っちゃうだけで、旦那さんも育児に協力してればそんないざこざは起きない、ってコメンテーターの人が言ってたよ。
「え……て事は聖南さん、浮気しちゃうんですか?」
「あっ!? いやそんな事言ってないじゃん! ヤキモチ焼く気持ち分かるって言っただけ……」
「そっか……聖南さん、俺がちょっと赤ちゃんを優先したら浮気したいって思っちゃうんだ……」
「いやいやいや、違うって! 浮気なんてしねぇよ! 俺は葉璃しか愛せない! あとにも先にも葉璃ちゃん一筋だ! 赤ちゃん優先する葉璃も好き! 大好き!」
「…………でも今……」
「やめろよ葉璃ちゃん! 俺怖くなってきた! ぜってぇ浮気しない! オムツ替え最優先だ! なっ?」
「………………」
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