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【別れ話】終
───けれど、葉璃が悪い。
誰よりも葉璃の幸せを望む聖南だが、その幸せは他の誰でもなく聖南が与えなくてはならないのだ。
結局感情のままに犯してしまい理由が聞けずじまいで、気を失った葉璃を抱き締めたはいいが怒りと恐怖が消える事はない。
一度吐き出したくらいでは衰えない性欲を持て余し、聖南は縋るように葉璃のうなじに鼻を埋めた。
理由を説明しろと揺り起こすべきか、寝かせておくべきか、葉璃の体を撫で回しながら聖南は悩んだ。
目覚めるとまた、死にたくなるほど恐ろしい台詞が待っている。 葉璃の唇が再度「別れたいです」と紡いで絶望を味わうなど、二度と嫌だった。
このまま目覚めなければ聞かなくて済む。 しかも永遠にこの体を聖南のもとに置いておけるのではないか。 ……非人道的な考えまで浮かんでしまう。
数時間後。
まだ外が薄暗い中に葉璃が起き出し、聖南の顔を見るや否やキッと瞳を吊り上げた。
そして、一晩中葉璃の寝顔を眺めていた聖南と目が合うなり、顔をくしゃっと歪めて号泣し始める。
「うぇっ……うぅぅ……えーんんっ……」
「…………おはよ」
「聖南さん、っひどい!! ほ、ほんとに、嫌いに、なっちゃいますよっ?」
「……何で葉璃がキレてんの? 誰かさんのせいで心が渇ききったんで癒やしてほしいんですけど。 絶対に言っちゃダメなこと言いやがった、倉田葉璃くん?」
上体を起こした葉璃は、わんわん泣きながら聖南に猫パンチを繰り出す。
なんだよ、と眉を顰めた聖南も体を起こすと、葉璃の両手を取って顔を覗き込んだ。
怒られる謂れは無い。 脈絡無く別れたいと告げられて、キレて問い詰めたいのは聖南の方である。
「…………ごめんなさい……それは、ほんとに、ごめんなさい……」
「理由を言えっつの。 こっちはいきなり過ぎてパニクってんだよ。 昨日の事、俺は謝んねぇからな。 別れるのも無理」
「違うんです、聖南さんっ! 俺は……っ」
「へぇ? ドライが良過ぎて気絶しただけあんなぁ。 やっぱ俺とのセックス以外考えらんねぇだ……痛っ」
ニヤリと卑屈な笑みを浮かべた聖南は、向かい合った葉璃から猫パンチより強烈な一撃を肩に食らう。
ひたすら謝り通そうとしていた葉璃が、今度こそ瞳を吊り上げてキレた。
「〜〜〜〜っっ! 聖南さんのバカ! イケメンバカ! カッコいいバカ! カリスマバカ!!」
「はっ!? それ悪口!?」
「俺は別れたいなんて一言も言ってないです!」
「───は? 今さら何言って……」
「俺が言ったのは、……「わかめたべたいです」!」
「………………?」
聖南は小さく首を傾げた。
よく分からない罵倒のあと、葉璃はなんと言った?
不機嫌さを貫けなくなった聖南は、一撃を受けた肩を擦ってさらに眉を顰める。
「………………何、……?」
「俺がいけないんですよ、そんなこと分かってます! 嘘吐けないくせにこんな事やっちゃったから! でも聖南さんはやり過ぎだったと思います! あっちこっち縛るなんて……っ!」
「待てよ、別れたいって言ったんじゃねぇの?」
「別れたいなんて言うわけないです!」
もう!と膨れて顔を背けた葉璃の耳が、真っ赤になっていた。
謎の台詞はさておき、返答次第ではこれから本当に葉璃をこの部屋に軟禁しなければと考えていた聖南だ。
葉璃が離れていかない。
それを知れただけで、強張っていた聖南の体から力が抜けてくる。
今ならどんなに猫パンチを受けたって構わない。 ホッと安堵した胸中なら、何もかもが笑えてしまいそうだった。
「なんだ…………なんだ、……なんだ……そっか……」
「ごめんなさい、聖南さん。 やっぱり、別れたいですに聞こえたんですよね。 ……ごめんなさい、……不安にさせちゃって……」
「いい。 別れたいって言ってないんなら、何でもいい。 ……俺もごめん。 あんなとこやこんなとこ縛って」
「聖南さんの目がほんっとに怖くて……。 聖南さんキレちゃってて、否定しても肯定しても悪いようにしかならないかもって、……」
ひどく安心した聖南はゴロンとベッドに寝転び、葉璃の腕を引いてぎゅっと抱き締めた。
誰が謝るものかと意固地になっていたが、何か事情がありそうな葉璃を思えば昨夜の事は詫びなければならない。
質の悪い冗談にしろ、キレた聖南は小道具まで使い怖がらせてしまった。 自覚は無かったけれど、ほとんど見せた事のない過去の聖南の瞳を葉璃に見せていたかもしれない。
抱き締めたまま、聖南は自身の気が済むまで葉璃に詫びた。
しかしながら、それらの原因となった意味不明な台詞は謎だ。
「───ところで、わかめたべたいって何なんだよ」
「あっ……それは……。 昨日お昼の生放送に出たんですけど、Vで「わかめたべたい」ってそれっぽく言ったら騙されちゃうのか?みたいな検証をしてて……見事にみんな騙されてカップルが揉めてたから、嘘が下手くそな俺がやっても出来るのかなって……」
今日エイプリルフールだし…と言いにくそうに俯く葉璃のつむじを見ながら、聖南はスマホを起動させてみた。
日付けを見ると、確かに、四月一日。
もしも信じ込まれても「今日はエイプリルフールでーす!」が使える。
「あんま葉璃には言いたくねぇけど……。 バーカ」
「うっ……」
「他は何したっていいけど、この類は二度とやめろ」
「ごめんなさい……」
「コックリングを使ったお仕置きを今からしますので、そのつもりで」
「え、っ!? も、もうアレやだ! 気絶するの怖いんですよ!」
「俺から離れないように調教しとかないとな」
「やだやだやだ……っ、聖南さんごめんなさぃぃ……っっ」
真相を知って破顔した聖南は、ふわりとアイドルスマイルを見せてコックリングを手に取った。
たとえこの先、万が一にも葉璃が本当の「別れたい」を告げたくなったとしても……聖南からは逃れられないという事を教え込まなければならない。
【別れ話】終
次回【BL萌えシチュをやってみた(恭也×葉璃)】
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