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★【BL萌えシチュをやってみた(恭也×葉璃)】3

〜 二本目・社会人編 〜  企画開発部に勤める俺と、広報部でバリバリ活躍している葉璃とは、勤務中ほとんど会う機会がない。  ただしランチタイムだけは別だ。  正午のチャイムが鳴ったら、俺は白衣を脱いで一目散にいつもの場所へと向かう。 「恭也っ」 「……葉璃。 お疲れさま」 「お疲れさま」  気持ちの良い晴天の下、ガチャっと扉が開かれて振り返ると、そこには手提げバッグを持った葉璃が照れくさそうに現れる。  首からぶら下げた社員証まで可愛く見えた。 「お腹空いたねー」 「うん。 俺はこの時間だけを楽しみに、午前中は仕事してるよ」 「恭也、大袈裟だなぁ」 「そんな事ない。 本当だよ。 (今度は寸止めするからね)」 「恭也……。 (うん、分かった)」  俺は葉璃とのランチタイムを良いものにするために、木製のベンチをこの屋上に勝手に設置した。  そこに並んで腰掛けると葉璃が物言いたげに見詰めてきて、我慢なんてしない俺は直ちに応える。(寸止め成功!)  目が合うと何の躊躇いもなく顔を寄せ合うようになってしまった俺達は、すでに十年の付き合いだ。(そういう設定)  同じベッドで眠り、葉璃が作ってくれるご飯を食べ、同じ時間に出社し、ランチタイムも共に過ごす。  二人とも定時で上がれる事がほとんど無いから、早く終わった方どちらかがオフィスに迎えに行く。  これは何か明確な言葉があったわけではない。 少しも離れていたくないという思いから、お互いの中で自然と出来上がった決まり事。 「今日たまご焼き失敗しちゃったんだよね」 「そうなの? 葉璃が作ったものなら何でも美味しいから、失敗にはならないよ」 「またそういう事言って……。 俺を甘やかしちゃダメ」  お弁当箱を渡されて開いてみると、確かにたまご焼きはいつもより色が濃くて不格好だ。  甘いたまご焼きは失敗してもしょうがないよ、と思いつつ、手を合わせて食べてみると少々の甘味どころか激甘だった。  でもこれは、料理が苦手な葉璃が俺のために一生懸命作ってくれたもの。 これ以上のご馳走はない。 「俺がご飯作るの許してくれないもんね、葉璃」 「練習したいんだよ〜いつになったら上手になるのか分かんないけど……」 「少しずつでいいよ、少しずつで」 「恭也優しい〜。 いつも下手っぴなご飯食べてくれてありがとう」  俺の台詞に感激した葉璃は、件のたまご焼きをパクっと口に含んで「甘ぁぁ!」と顔を歪めた。 (本当に激甘なたまご焼きだったんだよ)  葉璃の調味料の加減もなかなかに奇抜だから、俺は慣れたもんだ。 加えて、下手っぴなんかじゃない。  秘めたる潜在能力が、まだ開花していないだけだ。 「お料理上手になりたいって頑張る葉璃、とっても可愛いよ」 「………………。 (えっ? そんな台詞あった!?)」 「………………。 (葉璃、もう一回寸止めしよ)」 「…………っっ。 (だ、台本にないよ? 勝手なことしていいの?)」 「………………。 (いいの。 ほら、早く顔上げて。 いい雰囲気だからズームアップしてる)」 「…………っ……。 (わ、分かった……)」  一本目で寸止めを失敗した俺は、何とか名誉挽回したくて二回目のキス(のフリ)を催促した。  顎をクイッと持ち上げて上向かせると、間近に迫る葉璃がゆっくりと瞼を閉じる。 (こうして見ると本当に可愛いなぁ……葉璃。 セナさんとキスする時はいつも目閉じるのかな)  唇が触れ合う寸前で動きを止めたリアルな俺の頭の中で、天使と悪魔が闘っている。 "そのままぶちゅっとキスしちゃえよ、後からなんとでも言い訳出来るでしょ" "ダメだよ、葉璃にはセナさんが居るんだよ"  ……頭の中がうるさい。  もはや芝居どころじゃなくなってきた。(このあとさらに過激なシチュエーションを撮るのに……やり切れるかな、俺……) … … …  今日は俺が残業の日だ。  企画開発部の面々は小さいながら個室が与えられていて、ここに葉璃が迎えに来て一時間。  退屈させてしまった葉璃は、一人掛けソファに体育座りで掛けてこじんまりとなり、うたた寝をしていた。 「……葉璃、待たせてごめんね」 「ん、……終わった?」 「うん。 帰ろうか」 「待って、恭也」 「どうしたの?」 「それ、脱いじゃう? ……脱いじゃうよね、そりゃ……」  揺り起こした葉璃が、眠そうな目を擦りながらうっとりと俺を見上げて白衣の裾を掴んだ。  ねぇ……と小さく呟き、俯いた葉璃の耳が赤く色付く。(可愛い。 これ本気で照れてる。 可愛い。 可愛過ぎる) 「もしかして……興奮する? 俺が白衣着てると、たまに葉璃はその顔するよね」 「だって……かっこいい……」 「……いけないなぁ。 恋人からそんな風に煽られたら、ご要望にはお答えしないとね。 (葉璃、もう少し近付いて。 遠慮しないで体重かけて)」 「………………。 (分かった。 ……あ、あれっ……シャツのボタンが外れないっ)」  俺は葉璃の体を抱き上げて、一人掛けのほどほど柔らかなソファに腰掛けた。  葉璃に跨ってもらうと、積極的な葉璃が自らジャケットを脱ぎ捨てカッターシャツのボタンに手を掛ける。(緊張してうまくボタンが外せないと、慌て始めた)

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