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☆セナ様とハル姫様のお話②

 セナは、自らの立場を利用しハルを傍に置いた。  永久の伴侶だと告げたからには大義名分となるのだが、長があまり良い顔をしない。  何故だろうと考える余裕もないほど、ハルがこの地に降り立って以来セナは彼を溺愛した。  一つ一つのハルの挙動が愛おしく見えて、一寸たりとも離れていたくなくて、常に目の届く場所に置きたがった。  もう二度と離れなくていい。 死に際の恐怖を、二度と味わう事がない。  永久に共に居られる……そう考えただけでワクワクした。 「キョウヤ、ハルはどんな様子だ?」 「……変わらず、眠っておられます。 つい先程も、お伝えしました」 「そうだっけ」  セナが天界での職務中もなるべく傍に居てほしいのだが、ハルが睡眠を欲したので使いのキョウヤに見張りを託していた。  この天界には、現世ではとても口に出来ない何ともカラフルで複雑な味の果実がたくさん実る。  ここへ来た当日にそれをハルに食べさせたところ、一気にセナへの警戒レベルが下がった。  『こいつはおかしな事は言うが、美味しいものを恵んでくれる』。 ……言葉少ななハルは、瞳でセナと会話をしていた。  ハルはその果実で体内を潤し、知らない地への不安を忘れたいかの如くたっぷりと睡眠を取る。  寝室で無防備に眠るハルが心配で、信頼のおける使いのキョウヤに何度も様子を見に行かせているが、これが毎日なので彼もやや鬱陶しげである。 「セナ様。 職務に、集中されてください」 「してるしてる。 バッチリしてるよ」  長がどこからともなく睨みを効かせているのが分かっている。  セナは苦笑し、背もたれが異常に伸びた金色の椅子に仕方無しに掛け直した。 「あーぁ。 ハルと抱き合って昼寝したいなぁ」  次にこの地へ舞い降りてくる者を待つ間、足を組んだセナの脳裏にはハルしか居ない。  現世で生きていた頃ほどではないが、皆、三大欲求とやらもある事はある。  腹は空くし、眠たくもなるし、誰かと交わりたいとも思う。  しかし此処では男女の性別は無きに等しい。  体の造りの違いはあれど、天界で伴侶となった者が同性だった場合、相応に体が変異していくのである。  ハルが来てからというもの、現世の記憶がみるみる戻ってきている偉人となったセナは、つくづく此処は素晴らしい世界だと思った。  何のしがらみや秘密を抱える事なく、ハルを愛する事だけに専念出来る。  濁りようのない綺麗な水もあるし、実り豊かな果実畑も至るところにある。 下界のように特技を活かした生業をする者がそこらじゅうに居て、衣食住にはまず困らない。  諍いも無ければ、小さな揉め事さえも無い。 それらはなんと言っても、きっちりと身分 分けされたこの地独特のピラミッドが大きく関係している。  人のために働きたい、役立ちたいと願う者は自ずとピラミッドの下になってしまうけれど、彼らはそこで満足なのだ。  誰しもが上に居ていい技量を持ち合わせていない。  それらを直感し判別する異質な能力を持っていたセナだからこそ、ピラミッドの頂点に居た。  新たな天界人は、昼夜問わずセナの住まう館に降り立つ。 ここは何処だと惑う者達へ、セナの一声が救いを与える、それはそれは重要な責務である。 「おや、また一人、参られましたね」 「……だな」  ふんぞり返っていたセナは、キョウヤと共に上を見上げる。  光の中からふわふわと舞い降りてくる、この日最後となった新たな天界人。  浮かび上がってきた者がセナの前に降り立った刹那、またもや脳裏に懐かしい記憶が呼び覚まされた。 「お前は……」 「……どうも」  その者は、「イツキ」と名乗った。

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