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第29話
「ただいま。」
「あ、おかえり。
丁度良かった、牛乳買って……」
「お邪魔します。」
全身水浸しの息子と見知らぬ若い客人に、台所から顔を覗かせた相川の母親は目を丸くした。
隣で頭を下げる客人の髪色はしっとりと濡れ何時も違う輝きを見せている。
「どうしたの!?
タオル持ってくるからちょっと待ちなさいね。」
タオルを取りに奥へと引っ込んでいった母親には悪いが、スニーカーの中が気持ち悪いだろうと古志くんに靴を脱いでもらう。
中に入っている海水を外に捨て、天日で乾かす為に玄関先に置く。
この天気ならしっかり乾いてくれるだろう。
「あっ!
古志くん、携帯…っ」
「あぁ、俺の防水なんで大丈夫だと思います。
先生のは?」
「良かった…。
故障したらどうしようかと…。
僕のは置いてきたから大丈夫です。」
ポケットから携帯を取り出し電源をつけると、画面を見せてにっこり笑う古志くんに息を吐いた。
良かった…
「タオル、これ使ってね。
それからお風呂も使ってもらって。」
「ありがとう。
古志くんこっちです。
服は僕ので大丈夫ですかね。」
「すみません。
ありがとうございます。
お借りします。」
目元が赤いのがバレやしないか冷や冷やしたが、それよりもずぶ濡れの方が印象深く母親はなにも言わなかった。
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