49 / 83

第49話

「あ、おかえりなさい」 「た、ただいま、です…」 自分が開けたドアと全開の窓の間を風が通り抜ける。 それと同時に、食事のいいにおい。 迎えてくれたのは美味しそうなにおいだけじゃない。 「勝手に炊事場と冷蔵庫借りました。 先食べる? それとも風呂?」 「…え、あ、ご飯…食べます」 女の子を虜にする微笑みが自分だけに向けられている。 夢みたいだ。 古びたアパートの一室に、甘い顔立ちの格好良い人がいる。 日に焼けた畳の和室だがそれすら似合う。 逆にこういう部屋だからこそ、その甘さが引き立つと言うか。 見惚れてしまう。 「ボーッとして大丈夫ですか?」 「あ、はい…」 「手洗って待っててください」 「はい」 つい、お邪魔しますと言いそうになったが、此処は自分が借りている部屋だ。 靴を脱ぎ、どんぐりに帰宅の挨拶を済ませる。 どんぐりも古志と過ごせたのが嬉しいのか、心なし嬉しそうに見える。 ずっと一緒にいたのか。 羨ましい。 鞄を置いて、手洗いうがいをしに台所へ顔を出した。

ともだちにシェアしよう!