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第49話
「あ、おかえりなさい」
「た、ただいま、です…」
自分が開けたドアと全開の窓の間を風が通り抜ける。
それと同時に、食事のいいにおい。
迎えてくれたのは美味しそうなにおいだけじゃない。
「勝手に炊事場と冷蔵庫借りました。
先食べる?
それとも風呂?」
「…え、あ、ご飯…食べます」
女の子を虜にする微笑みが自分だけに向けられている。
夢みたいだ。
古びたアパートの一室に、甘い顔立ちの格好良い人がいる。
日に焼けた畳の和室だがそれすら似合う。
逆にこういう部屋だからこそ、その甘さが引き立つと言うか。
見惚れてしまう。
「ボーッとして大丈夫ですか?」
「あ、はい…」
「手洗って待っててください」
「はい」
つい、お邪魔しますと言いそうになったが、此処は自分が借りている部屋だ。
靴を脱ぎ、どんぐりに帰宅の挨拶を済ませる。
どんぐりも古志と過ごせたのが嬉しいのか、心なし嬉しそうに見える。
ずっと一緒にいたのか。
羨ましい。
鞄を置いて、手洗いうがいをしに台所へ顔を出した。
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