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第56話

湯がいた素麺を冷水で〆めていると、アパートの裏に生える茗荷を採りに行ってた相川が帰ってきた。 「おかえりなさい」 「ただいま、です。 お任せしてしまって、すみません…」 「それより、腰大丈夫ですか? 待ってる間に素麺ゆだりましたよ」 階段の往復がキツそうで自分が行くと申し出たのだが、見慣れない古志に他の住居者が驚くといけないと相川が部屋を出たのはお湯を沸かす前の事だ。 お湯が沸き、素麺を規定の時間茹で、〆る。 ここまでの時間いっぱいを使って相川は帰ってきた。 「……歳は、とりたくないですね」 「いや、それえっちが原因ですよ」 「…ぁ…そ、んな、言葉…」 30過ぎの男の赤面がこんな可愛いと思えるなんて、きちんと惚れてる証拠だ。 「素麺伸びるから茗荷切りますよ。 光輝さんも手洗ってください」 「は、はいっ」 もさもさの髪で顔を隠そうとするから意地悪がしたくなる。 分かってんのか。 そういうところやぞ。

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