62 / 83

第62話

相川は慌てて冷房を着けると、ひんやりしてきたら窓を閉めてくださいと言い残し手を洗いに行った。 どんぐりは美味しそうに水を飲みはじめ、古志は5分前と同じ様にごろんと畳に寝転んだ。 草のやらかさに、手のひらで触れる。 カチャン… 麦茶の注がれたグラスを手に相川はすぐに戻ってきた。 飲んでください、と声をかけながら窓を閉め撹拌用の扇風機もつける。 ぬるい空気と冷たい空気が混ざりあい、次第に冷たさが勝ってきた。 「僕が居なくても勝手にクーラーつけて良いですから、熱中症には気を付けてください。 古志くんになにかあったら心配ですよ」 正座をする相川をだらりと寝転がったままの古志は真っ直ぐに見た。 寝転がっていると顔が良く見える。 自信がないのだとわかるのは、顔を隠す様に伸ばした無造作な髪や俯き気味な姿勢。 だけど、とても慈愛に満ちている。 どんぐりに向ける視線の優しさや、生徒に対しても物腰やわらかく接しているのを知っている。 そんな優しさを持っているのだから自信をもって欲しい。 下から手を伸ばすと、そっと外気で火照った顔に触れた。 「あ…」 「もっと顔寄せてください」 「顔…ですか?」 そう、とその口のまま、あたたかな唇にそれを押し当てた。 「こ…っ」 「んー、ふふ」 慌てて口元を隠す相川と満足気に口元を緩める古志をよそに、どんぐりは楽しそうに車で遊び始めた。

ともだちにシェアしよう!