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監察日誌:決定的な失恋と唐突な脅迫事件3
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早朝、誰よりも早く署内に到着。監察室でちまちま指紋を取り検索をかけたが、残念なことにヒットしなかった。
俺自身そのコンビニにはよく行くが仕事柄不規則なので、曜日や時間帯はすべてバラバラである。今朝もコーヒーを買いに寄ってみたものの、レジには若い女性店員と、おばちゃん店員がいただけで、収穫は得られなかった。
透明の袋に入れた脅迫めいたレシートを、ぼんやりと眺めてみる。
「俺が微糖のコーヒーを飲むことも、タバコを嗜むことも知っている人物。つまり――男性店員がホシ、なんだよな……」
書かれている文字は走り書きにも見えるが、バランス良く整っている筆跡に、好感が持てた。文字に対して好感は持てるが書いてある内容は、どことなく山上を彷彿とさせるものがある。
「執着心の強さ……か。ここまで想われるような、人間じゃないんだがな」
苦笑いしながら、レシートをポケットにしまった。お蔭で昨日の失恋のショックが、半分以上失せている気がする。
「お礼を言わなきゃならないから、絶対に捜しだしてやろう」
強引な理由を作って、自分に発破をかけた。理由はどうあれ、どんなヤツがストーカーしているのか、興味が湧いたのである。だがどんなヤツが相手でも、付き合う気は毛頭なかった。
「さてと、そろそろ学校が始まる時間だな。矢野 翼くんの顔でも、拝みに行くとするか」
腕時計で時間を確認して、椅子から立ち上がる。中身が山上に似ているという高校生にも、大いに興味が湧いたから――
デスクに山積みにされている仕事をチラリと見て胸が痛んだが、興味が勝っているので華麗にスルー。とっとと彼の拝見が終わってから、目の前の仕事を片付けてやろうじゃないか。
昨日の沈んだ気持ちとは一転、軽い足取りで監察室を出た。
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