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監察日誌:決定的な失恋と唐突な脅迫事件5

*** 「コイツは、誰だ?」  監察室に入ってから証拠の写真を水野くんに見せつけて、開口一番に問い質した。 「えっと……矢野翼、私立高に通う三年生です……」  遠慮がちな言葉とは裏腹に、大きな目を更に大きく見開いて、写真をまじまじと見つめる。 「山上の次が、未成年の男子高校生って、ちょっといき過ぎじゃないのか?」 「あの……その」 「君の上司から、しっかり報告を受けているんだ。今更隠しても無駄だぞ」  俺の調べも付いているんだ。見たくない現実を急に突きつけられたこの気持ちは、どうすればいい? 「優秀な君がくだらないことで、身を滅ぼす姿を見たくないんだよ」 「……翼との恋愛は、くだらないことじゃないです。俺は真剣に――」 「男同士の恋愛に、明るい未来はあるのか? なぜいばらの道に、まっすぐ突き進むんだ水野くんっ」 「関さん……?」  水野くんの恋愛事件もさることながら、俺のレシート脅迫事件もあれから展開がなかった。なのでついイライラが募ってしまい、水野くんにあたってしまう始末に気持ちはどうにもならなくて――。 「山上はどう思うかはわからないが、俺個人としては君には普通の恋愛をして、しあわせになって欲しいと思っているんだ」 「はあ……」 「なのに、君ときたら――」  俺は水野くんの首に左腕を回し、そのまま壁に向かって除夜の鐘よろしく打ちつける。一度ならず、二度三度。 「あだだっ……関さん、ちょっ、たんまっ!」 「男子高校生に手を出すなんて……そんなロリコン変態野郎だったとは……俺は失望したんだよ」  四度目のゴンッ!  俺は好きという気持ち以外の心の内を、水野くんに伝えた。伝えたら、意外とすっきりした。なんだか、不思議な感じだ――。  放り投げるように水野くんの体を手放し、両腕を組んでその情けない姿をじっと見降ろした。水野くんは涙目になりながら、しゃがみこんで頭を撫で擦っている。 「水野くん、悪いが不毛な恋愛は応援しない。仕事面ではバックアップしてやるが、プライベートに関してなにかあっても、絶対に助けてやらない」 「わかりました。なるべく問題を起こさないよう、隠密に行動します。そこで、お願いがあるんですが……」  上目遣いをして、おどおどしながら拝んできた。 「無理な頼みなら、聞かないぞ」 「難しいお願いじゃないですよ。ただその手にしてる写真、俺にくれたらいいだけですから」  小首をかわいらしく傾げる水野くんに呆れ果て、またしても壁に頭をゴンゴン打ちつけてやった。 「水野くん、君の頭の中は、どこまで腐っているんだっ!」 「あだだっ! 関さん頭が、崩壊するって……」 「中が腐ってるんだ。外も壊して、リセットすればいいだろう?」  水野くん――山上以上に、変な男かもしれない。どうしてこんな男を、俺は好きになってしまったのだろう?  呆れながらも、最終的には写真をあげしまった。水野くんのおねだりに、勝てる日は来るのだろうか……。

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