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監察日誌:熱い視線と衝動的な想い2

*** 「あ~、この時間帯ってば、暇すぎる……」  ランチタイムが終わった、午後2時15分過ぎ。勤務しているコンビニ内は、お客が誰もいずガランとしていた。  店長は発注をしに、裏に行ったばかりで俺一人がカウンターに佇みながら、さっき関さんからもらったメールを、こっそりと眺めた。 「やっぱ、忙しい人なんだよなぁ。でも必ず会いに行くって、書いてくれるだけ有難いかも」  素っ気ない文章の中に、ちょっとだけ含まれている、僅かな幸せを探す。俺の書くメールに、毎回律儀に返信してくれる関さん。  文章は本人同様、素っ気ないものだが、その言葉の裏の裏を、きちんと読みとって噛み砕く。  俺ってどんだけ、関さんに夢中なんだろ。  呆れ果てていたそのとき、コンビニの扉が音を立てて開いた。 「いらっしゃいませぇ」  反射的に挨拶をし、入って来たお客を確認する。次の瞬間、心臓がバクバクと一気に、駆け出してしまった。 「関さん……」  と背が高くて色白の男性が、何かを喋りながら、楽しそうに入って来たから。  もう何度目だろう、この切ない気持ちを、ぎゅっと噛みしめたのは――  俺は思わず、俯いてしまった。  レジ横にあるお弁当コーナーで、仲良く品定め。まるで見せつけられている様である。 「どれにしようかなぁ……」 「数少ない弁当に、どうしてそんなに悩むんだ。さっさと選べ、水野くん」 「食べたかったお弁当が、売り切れてたんですってば。だから悩んでるんですよ」  うーんと言いながら、棚を覗きこむ関さんの想い人。そんな彼を、じっと見つめる関さん。  見つめる関さん……って、あれ!? (俺――?)  もしかして彼を通して、俺を見つめてる!?――見つめられているのか、俺? 『俺のホークアイにかかったんだ。これから覚悟しろよ?』  以前告げられた、その言葉を思い出す。突き刺さるようなその視線に、どうしても目が離せなかった。俺だけを見つめて欲しいと強く願ってしまう。 「水野くん……」 「はい、すみませんっ! なかなか決められなくって」  棚から顔を上げた想い人は、慌てふためく。関さんは、まだ俺を見続けていた。  その視線に気がつき、想い人も不思議そうな顔をして、小首を傾げながら俺を見る。 「紹介するよ。彼は……俺の男なんだ」 「は!?」  俺と想い人は素っ頓狂な声で、同じセリフを吐いてしまった。 「えっと、関さんって……あっちの人だったんですか?」  想い人が、なぜか天井を指差す。どうして天井なんだろう? この人……ちょっと変わってるかも。 「君のように、未成年にとち狂ったりはしないけどな」 「ええっ!? 未成年と付き合ってるんですか?」  思わず声を出したら、想い人はちょっと困った顔をして、 「確かに翼は未成年ですけど、とち狂ったりしてませんからね。変なことを、彼に吹き込まないで下さいよ」 「エロい水野くんの相手をするのには、若くなくちゃ、いろいろ持たないだろう。大変だな」 「ちょっと、また、変なこと言わないで下さいって……関さんの彼氏が、俺に変なイメージを持つじゃないですか」 「山上の墓前で、大きな声で報告されていただろう? 彼、大変だったんだろうなと、思わず憐れんでしまったんだ」 「何でそのタイミングに、関さんいるんだよ……」 「山上の祥月命日だったからだ。君たちをつけたワケじゃないからな」  俺以外にもこうやって、辛辣な言葉をスラスラ言い放つんだ。関さんって……  ふたりのやり取りを黙って聞いてる俺に、想い人が突然話しかけてきた。 「えっと、初めましてじゃないけど、関さんにはいつもお世話になってる、水野って言います」  ペコリと丁寧に、お辞儀をしてきた。律儀な人なんだな……どっかズレてる感じはあるけど。 「はぁ。俺は、伊東っていいます」 「お世話になりっぱなしだと、訂正だ。水野くん」 「そんなことないですよ。ホント相変わらず、キツイことしか言わないんだから。彼氏も大変でしょ?」  ポンと自然に話しかけられて、正直戸惑う。本人を目の前にして、事実を語るなんて出来ない。 「あの、その……」 「何を戸惑ってるんだ、雪雄。はっきり言えばいいだろう? 優しくされてますって」 「え……?」  さりげなく名前で呼ばれ、ポッと頬が赤くなる。 (何、想い人の前でこんなセリフ、言ってるんだよ。まるで……見せつけてるみたいじゃないか) 「関さんがデレた顔して、ヒドイ事を言う姿、初めてみた。違う意味で、お腹一杯になっちゃったかも」  そう言いながら水野さんは、関さんに体当たりした。  ちょっとだけの体当たりなのに、関さんの体はえらくグラついて、明らかに動揺しているのが伝わってくる。  ポカンとした俺に、関さんは手にしていたお弁当を乱暴に、カウンターに置いた。 「ボーッとしてないで、きちんと仕事しろ」 「は、はいっ! 今すぐ温めますね」  関さんの顔は多分、俺と同じくらい赤くなっていると思う。これって、期待していいのかな……心臓がうるさいくらい、鳴りまくっているよ。  会計を済ませ、慌てて袋の中にお弁当を入れて、関さんに手渡す。 「今夜、時間大丈夫か?」 「……はい、いつでもあいてます」 「じゃあ、行くから。待ってろ」  手短に言って、さっさと出口に向かう。そんな彼の後姿を見ながら、水野さんがポツリ。 「ふたり、すっごいラブラブなんだね。羨ましいなぁ」 「いえ、そんな……」 「さっきのやり取りみたら、胸が一杯になっちゃって、お弁当が食べられないかも」  俺は手渡されたお弁当を、レンジに突っ込み電源on。小銭をもらって、レジに打ち込んでいると、 「関さんすっごい、意地悪なことしか言わないけど、それはただ素直じゃないだけだから。分かってると思うけどね」 「はあ……」 「だけど俺といるより、ナチュラルな表情していたよ。きっと君といるのが、居心地いいんだろうなぁ」 「そう、見えるんですか?」 「うん。全然違う、だからもっと自信持ちなよ。キライキライもスキのうち、なんだからさ」  それって、言葉の裏の裏ってことなのか? 「自信無さげに見えます?」  気になったので、思い切って聞いてみた。 「自信無さげっていうより、ビクビクしてる感じかなぁ。あの関さんが相手なんだもん。しょうがないよね」  ふわっと笑いながら、俺が手渡した弁当を受け取る水野さん。ちょっと変わった人だけど、優しいんだろうな。 「関さん、喜怒哀楽の楽が著しく欠如してるから。君が笑っていれば、きっと楽しいんじゃないかな。山上先輩といても、あんな顔してなかったし……」 「山上先輩?」 「うん。関さんの同期で、署内で一番仲の良かった人なんだ。亡くなっちゃったけど」 「あ……」  ――水野さんの、元彼のことか。 「関さんが穏やかに署内で過ごしてくれるためにも、君にはホント、いろいろお願いしちゃう。関さんをたくさん、癒してあげてね」 「癒してあげてって、言われても……」 「気は短いし気難しいし、仕事は大変だし、怒ったら手がつけられなくって……ほら、外から俺を睨んでる。そろそろ行かないと、拳骨されるな」 「ははっ。大変そうですね、頑張ってください」 「君もね。関さんを宜しく頼むよ」  そう言って、出口に駈け出して行った水野さん。彼の予想通り、出た瞬間に頭をグーで殴られ、痛そうにしている。  俺がカウンターから身を乗り出して、あちゃ~と思いながら、その様子を見ていたら、関さんが振り返って俺を見た。  その顔は、どことなく晴れやかで、すっきりしたように見えるのは、俺の気のせい?  思わず見惚れていると、左手を左右に振ってくれる。  俺だけを見てくれる関さんが、もっと好きになった。

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