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監察日誌:熱い視線と衝動的な想い3
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俺がバイトを終える五分前に、コンビニ前に車を停めた、関さんを発見した。今回は買物がなかったのか中には入らず、俺を待ってくれるみたいだ。
こうなると仕事が上がる時間が、異常なくらい長く感じてしまう。早く関さんに会いたいという気持ちで、いっぱいになって仕事どころじゃなくなるから。
そんな落ち着かない心情を悟られないように、積極的にせっせと棚の整理をしていたら、
「今日はお客がいないから、上がっていいよ。お疲れさん」
店長の言葉が、神の声に聞こえた瞬間。残り三分でも、非常に有難い。
「お疲れ様でした、失礼しますっ」
ペコッと頭を下げて元気よく言ってから、急いで着替えて、関さんが待つ車に走った。
いつものように、助手席の窓ガラスをコンコンしてから、ドアを開ける。
「こんばんは。お待たせして、すみません」
目を伏せて車に乗り込む俺に、関さんはフッと微笑んだ。
「何か……えらく浮かれた顔をしてるな。何か、いいことでもあったのか?」
その台詞に、困惑するしかない。浮かれた理由作った原因は関さんが一番、よく知っているだろうに……
「関さんって、ホントに意地悪ですよね。俺の気持ちを知ってて、そんな質問をするんだから……」
口を尖らせた俺を確認すると、してやったりな顔してから、アクセルをゆっくり踏み込んだ。
「今日は、ビックリしましたよ。水野さん連れて、お店に現れたときは」
「ああ。昼飯一緒にしませんかと、誘われたからな。たまに、そういうことがあったろ。今更、驚くことでもないだろう?」
「そうなんですけど……もっとビックリしたのは、あの、ですね。水野さんに俺の事を、紹介したじゃないですか。俺の男、だって……」
関さんと俺の付き合いは、囲碁の相手というのが現在進行形。キスだって、あの日以来していないし、勿論それ以上のことすら、していない関係なのに。
突然の俺の男宣言に、すっごく困惑してるんですけど……しかも相手はあの、水野さんになんだから。
自分が好きだった相手に、紹介するというのは、その……俺は自惚れていいんだろうか?
チラリと運転してる、関さんの横顔を眺める。その顔色からは、相変わらず何も掴めない。
信号機が赤に変わり、ブレーキを踏んだ関さんが俺に振り向く。
「紹介したの、迷惑だったのか?」
「ちっ違います。そうじゃなくて、あの……水野さんを吹っ切るために、俺とのことを言ったのかなって考えたり、してみて……」
「バカだな、お前は……」
メガネの奥の瞳が、優しく俺を見たと思ったら、首の後ろに強引に腕を回して引き寄せ、そっとキスをしてくれた。
途端に後続車から、けたたましいクラクションが鳴らされる。いつの間にか、信号が青に変わっていたからだ。
「キスもろくすぽ、楽しませてもらえないとは。運転中はダメだな……」
苦笑いしながら言うと、勢いよくアクセルを踏んで、再び俺の家に向かった。
バカだな、お前は――って。いつもなら俺を『君』って呼んでた関さん。キスもそうだけど言葉の変化に、ドキドキが止まらないよ。
一気に詰められた心の距離感に、赤くなって戸惑いながら俯いた。
すっごく嬉しいのに、そこに秘められた意味が関さんお得意の意地悪に、何となく繋がっているようで、妙に落ち着かない。
膝に置いてる両手を、意味なくにぎにぎしながら、じっと見つめている間に、自宅アパートに到着。
いつものように右手でシートベルトを外して、降りようとしたその手を、関さんが強引に掴んだ。
「えっ?」
きょとんとした俺に、囲碁をしているときのような真剣な眼差しで、射抜くように見つめてくる。
「いつの間にか俺の心の中が、お前に乗っ取られたみたいだ。毎日メールで、脅迫文を送ってくるから」
「ちょっ……脅迫文じゃないですってば。俺の気持ちなんですっ」
「好きだの、会いたいだの延々と書いてくれたお陰で、いい感じに洗脳されたらしい」
ふてくされた俺とは逆に、どこか楽しそうな関さん。洗脳だの脅迫文だの言ってないで、素直に俺を好きって言えばいいのに――
(だけどこの人に強請っても、きっと言ってくれないだろうな)
どうにも切なくなり、見つめてくる視線をあからさまに外すと、握っている手にぎゅっと力が入った。
「……関さん、痛いです」
「雪雄お前に、焦がれてるよ」
そう言って、シートごと俺を抱き締めると、荒々しく唇を重ねてきた。
「んっ……」
反射的に関さんの体を、グイグイ押し退けようと必死になる。だってここは、アパート前の駐車場で。夜遅くだけど、小腹がすく時間帯だから出掛ける人が、もしかしたらいるかもしれない。
アパートの扉を開けて、目の前に映るこの状況を見られたら……そう考えたら、落ち着いて身をまかせることなんて、出来るワケがない!
全力で抵抗を試みても、びくともしないばかりか、シートを倒さずに、自分の体をぎゅっと押し付けて、俺の体の自由をしっかりと奪っていった。
呼吸すらままならないキスに、頭がどんどんボーッとなってくる。
「俺はお前に、焦がれているんだ。いい加減に分かれよ……」
いつもより掠れた声で、耳元に告げる。それだけでも体がゾクゾクするのに、関さんの手が躊躇なく、俺の太ももに伸ばされた。
その手が滑るように、俺の大事な部分に――
「だだっ、ダメですよ! こんなところで、そんなことっ!」
車から降りて2階に上がれば、俺の部屋にたどり着けるのに。
「誰がダメだと決めたんだ? ワガママを言うな」
「やっ……ちょ、まっ……誰かに、見られたら……はっ、どう、するん……ですかっ」
「具合の悪いお前に、人工呼吸していると言ってやるさ」
そんな無茶苦茶な――
ジーパンの厚い生地をものともせず、関さんは俺をどんどん気持ちよくしていく。抵抗していた腕の力がみるみるうちに抜けていき、荒い呼吸が車内に響き渡った。
大好きな関さんに身をまかせている、今の現状が夢を見ているみたいで。信じられない感覚と、関さんが直接もたらしてくれる甘美な快感が、身体を駆け巡っていく。
「……関、さ、好き……」
涙目になりながら、告げる俺の気持ち。心臓が破裂しそうなくらい、バクバクしているよ。
「我慢してる、雪雄の顔……クる……」
目を細めて俺の顔を見つめる関さんも、同じように我慢している顔だ。
気持ちよさに時折、腰を浮かす俺の体を抱きとめながら、あいてる手でTシャツの裾から手を侵入させる。
「あっ……もう、ダメです、ってば……ふあっ、んっ……」
「感じやすいんだな」
「……関さん、だから……だよ。感度が、二割増し、に、んっ……なってる、みた、い……」
息も絶え絶えにやっと答えると、そっと触れるだけのキスをしてから、押しつけていた体を離した。
何事もなかったようにメガネを上げると、さっさと運転席に戻り、そのまま外に出た関さん。小走りで助手席側に回り、ドアを開けて俺の膝裏に腕を差しこんできた。
「えっ!?」
軽々と俺をお姫様抱っこして、車から出す。開いたドアを体で閉めてから、慎重にアパートの階段を、一段一段ゆっくり上った。
「関さん俺、歩けますよ。何かハズカシイです……」
「下半身が湿って、もっとハズカシイことになっているだろう。鍵をよこせ」
「う……お願いします……」
俺を抱いたまま、器用に鍵を開けて中に入る。玄関にそっと俺を立たせて、ため息一つ。
「さて、と。これからどうする?」
狭い玄関、靴を履いたままの俺たち。真顔でどうして、そんな野暮なことを聞いてくるかな。
「と、とりあえず、ここじゃなんですから、中に入りましょうか。あはは……」
前かがみになりながら自分の家なのに、おずおずと中に入る。関さんはいつも通り、サクサク入って来た。
これから、どうする……俺。それってアレを、アレしてこうして――
俺は俯き、恥ずかしそうにしながら口を開きかけた時、
「雪雄……お前」
その言葉に上目遣いで関さんを見たら、眉根を寄せて、えらく迷惑そうな顔をしていた。
――俺、何かやらかした?
「すっごく、汗臭い。シャワー浴びろ」
「うっ。すみませんっ! 今日荷物の搬入手伝ってて、たくさん汗かいちゃったから……」
荷物の搬入もそうだけど、さっきのアレでも汗をかいたのは事実。関さんから伝わる熱が、俺の体温を急上昇させたんだ。
恥ずかしくなって、関さんに背を向けた。下半身はこんなだし、汗臭いし空気読めてないし最悪すぎる。
俺が頭を抱えて、うわぁと考えていたら、背後から衣擦れの音がした。
不思議に思って振り返ると、関さんが着ていた背広を脱ぎ、その場に置いていた。次はゴツい手でネクタイを外し、同じところに置く。
「関さん……?」
思い切って声をかけると、ワイシャツのボタンを器用に外しながら、
「お前ほどじゃないが、俺も煙草くさいだろ。一緒にシャワー浴びようと思って」
「え……」
「イヤなのか?」
「そそそ、そうじゃなくってですね。狭いからっ、うちの風呂……」
「それがどうした?」
鼻息荒くワイシャツを脱ぎ捨てると、俺のTシャツに手を伸ばす。
「脱がないなら、強引にひん剥くぞ」
「ちょっとっ! たんまたんま……自分で脱げるからっ」
俺が慌てふためくと、面白そうに口元を歪めて、メガネを外した。レンズ越しじゃない目で見つめられ、その直の眼差しに恐れ慄くしかない。
ホークアイ――野ネズミを狙う鷹の様な瞳が、俺を捕らえている。
「ぐちょぐちょにしてしまったココも、綺麗に洗ってやるから、早く脱げ雪雄」
一気に距離を詰めて俺に抱きつきながら、その部分をまさぐった。
「やっ……これじゃ、脱げないって……」
「トロくさいヤツ。強制連行だ」
「脱ぐ脱ぐ脱ぐっ! 無理強いはイヤだよ、関さん」
俺が腕の中でジタバタすると、呆れて手を離してくれた。関さんに背を向けて、やっとTシャツを脱ぐと、
「俺を綺麗に洗って下さい、お願いしますって言ったら、これ以上のことはしない」
これ以上って、どれ以上?
不可解に思いながらも、関さんには敵わないと分かっているので、とりあえずお願いしてみた。
「えっと、俺をキレイに洗って下さい。お願いします……」
ジーパンのボタンを外し、おどおどしながら言うと、既に素っ裸の関さんが、してやったりな顔をした。
「断る!」
「なっ!?」
「もう限界なんだよ、俺は……いつまで待たせる気なんだ」
さっきとは違う掠れた声で言うと、肩を優しく抱いて浴室に連れて行く。
シャワーを出し、ふたりで見つめ合った。
「声……あまりあげるなよ。外に聞こえるから……」
「そんなの無理だよ。だって、関さん……だから」
「しょうがないヤツ。だったら俺の手でも噛んでおけ」
「その前に、関さんのキスが欲しい。ちょうだい……」
追うと逃げられたキス。今は追っても逃げないで、逆に俺を求めて追いかけて来てくれる。
それだけで俺は――
熱いシャワーが、俺の涙を流してくれた。好きな人に抱かれる喜びに、みち震えながら。
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