24 / 38
監察日誌:熱い視線と衝動的な想い4
***
「ん……?」
寝返りしようと体を動かしたら、背中に壁が当たって身動きが取れない。セミダブルのベットに男がふたり、やっと寝ているのだ。腕の中にいる雪雄を見て、やっと自分の置かれている状況を把握した。
口を少しだけあけ、しどけない様子で眠る可愛い姿に、自然と笑みが浮かんでしまう。
「こんな姿さえ愛しく思うんだから、相当まいってるよな……」
柔らかい頬にキスをしてやると、少し身じろいでから、すりりと俺に体を寄せてきた。
まったく――無防備すぎる。今の俺が何もしないと分かっていて、寄ってきてるんだろうか。
「俺のどこが、そんなにいいのやら……」
ポツリと呟いたら、ふっと目を開いた雪雄。
「形の良い耳……」
「なんだ、起きているのか?」
「ん……。何か聞こえたから、答えただけ」
ぼんやりとしながら、ぶつぶつ答える。もしかして寝ぼけているのか?
「耳が良いなんて、変わってるな」
「あとね……神経質な関さんに似合わない意外とゴツい造りの、血管の浮き出た手が好きなんだよ」
この微妙すぎる感覚、山上に通ずるものが、あるようなないような。
大学では建築学を学んでいる雪雄。以前空間デザインについて、熱く語られたのだが、正直なところ話についていけなかった。
俺は見たまま、白か黒かを判断する。だが雪雄は違う角度から物事を判断し、鮮やかな色彩をつける。自分にはないその感覚に惚れ込んだのだろうと、容易に分かったのだが。
「ねぇ、関さん……」
「どうした?」
「俺……ウザくないですか?」
余程気になったのだろう。うつらうつらしながらも、たどたどしく訊ねてきた。
「バカとは言ったが、ウザいなんて一言も言ってないぞ。ウザいくらいが、俺には丁度いいんだ。そんなこと気にするな」
「そ? 良かった……」
「ああ。安心しろ。大丈夫だから」
俺の言葉にちょっとだけ微笑んでから、気を失うように眠りについた雪雄。
ウザい……前の彼のことを引きずっているから、心配になって出た言葉だろう。きちんと俺を気持ちを伝えていれば、いらない不安を募らせる必要なんてないのに。
「これでも少しは、前進したつもりなんだがな」
お前から貰った好きに見合うくらいの愛を、俺はいつ渡せるだろうか? この両手から零れそうな程の愛を、お前は受け取ってくれるだろうか?
「焦がれているという言葉じゃ足りなんだよ。本当に困ったな」
雪雄の体から伝わる心地良い熱が、ゆっくりと眠りの世界へ導いていくようだ。俺は目を閉じて、雪雄を抱きしめた。
「夢の中でも、お前に会いたいなんて。俺の方が相当、ウザいヤツだろうに……」
雪雄はこれを聞いたら、何と答えるだろう? 瞼の裏に恥ずかしがっている雪雄を思い浮かべながら、引きずられるように眠りについたのだった。
ともだちにシェアしよう!