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06.
アレストが目を覚ました事は町中の
みんなへ伝わり、
誰かが「アレストは神の子だ。だから
救われたんだ」と言った。
町はすっかりお祭り騒ぎだった。
俺もまた、アレストが目を覚ました奇跡を
その喜びを、幸せを噛み締め
より一層強く彼の手を握る。
みんなが喜ぶ中、老医者だけは
顔を歪めていた。
念の為の診察中、医者は深刻そうな顔で
アレストの腰辺りを指差した。
「アレスト、これは昔からあったか?」
「え…?」
なんだ、と視線を移せば
そこにあったのは、魔法陣のようなモノ。
タトゥーのようにも見えるし
アザのようにも見える。
アレストにこんなものは無かった。
「えっ…!なんだろう、これ…」
「今、これに気付いたんだね?」
「は…はい…僕タトゥーなんかした事ないし…」
アレストもびっくりしたように自分の腰を
眺め、その魔法陣を触る。
「…レオン王子、フォレストがどこに
いるか分からないか?」
医者はゆっくりと俺に視線を移す。
どきり、とした。
そういえば、アレストが目を覚ましたというのに
フォレストは姿を見せない。
…やはり、そういう奴だったのか、と
心底嫌悪する。
「知らない。今朝見たっきりだ」
「…そうか。」
「…奴がどうかしたのか」
その問い掛けに医者は答えず、
視線だけで俺に「外に出ろ」と言ってきた。
不安げなアレストにすぐ戻る、とだけ伝え
俺と老医者は病室の外へ出る。
「なんなんだ、一体」
「…残念ながらアレストは神の子ではないよ」
「は…?ならなんで目を覚ましたんだ」
「…フォレストだ。」
「は…?」
ちんぷんかんぷんな事ばかり言う医者に
俺は思いっきり顔をしかめる。
「あの魔法陣は悪魔のモノだ。間違いない。
そして悪魔が見えるのはフォレストだけ。
…アレストが目を覚ましたのはあの子のおかげだろう」
その言葉に、臓器を潰されるような
痛みと衝撃が襲う。
なに?フォレストが、悪魔に?
だってアイツはもう見えないと言った。
なのにどうして。
「アレストの生の契約をしたんだろう。
だからアレストの腰にあの魔法陣が現れた。
…代わりにもう、フォレストは帰ってこない
アレストは目を覚ましたばかりだ。
こんな事を言うと混乱してしまうだろう。」
フォレストは、帰ってこない。
悪魔と契約をしたから。
今朝最後にみた彼を思い出した。
悲しげに、でも優しさを含めたまま
なんて言ってた?
ああ、そうだ。「ごめんね」と言ったんだ。
俺が好きだと彼は言っていた。
どうしてこんな時に、と俺はその手を払った。
最初から、こうするつもりで。
だから俺が好きだと言ったの?
最初から魂を売るつもりで。
「古代からこの町の森には悪魔が住んでる
と言われている。その悪魔が、フォレストに
見えていた悪魔だろう。そして、悪魔と
契約すれば魂を抜かれて、永遠に孤独を彷徨う」
老医者は窓の外を眺め、悲しそうに
眉を下げて少し震えていた。
「あの子は、本当に優しい子だから…」
昔から双子を知る医者は、
アレストだけではなくフォレストの事も
しっかりと見ていた。
だからこそ、フォレストがそうなった事に
心から悲しんでいる。
だけど、俺は、フォレストの事など
なに一つ知ってはいなかった。
知ろうとも思わなかった。
悪魔が見えると言った時さえ、
どうとも思わなかった。ただの戯言だと片付けた。
なのにアレストが危険になってから
縋るように、その言葉を信じて。
都合良く、彼を使ったのは俺じゃないのか。
俺が彼に縋ったから、
彼は、悪魔と契約したんじゃないのか。
それから何日かして、アレストが退院しても
フォレストは帰って来なかった。
アレストの身体はすっかり健康になり、
熱も出なくなった。
アレスト自身はそれを喜んだし、
町のみんなもより一層神の子だと、騒ぎ立てた。
その度に俺の心は痛みを帯びる。
違うんだ。
神のおかげなんかではない。
優しい、森のような瞳を持つ小さな小さな男が
代償になったんだよ。
なぁ、フォレスト。
今、何処にいるんだ。
逢えたら言いたい事聞きたい事がある。
身勝手だと怒られたっていい。
お前の事を教えて欲しい。
今更過ぎる全てに、嫌気がさす。
彼がくれた「幸せ」を一身に受けられない
そんな俺は、悪魔より酷い男なのだろうか。
ひゅるり、と風が吹いた。
その風は優しく、
どこか彼みたいだと思った。
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