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「……ぇ?」 「どう言う、ことですか…?」 俺たちは失礼な質問をしてると思う。 本人に聞かないといけないのに もしかしたら佐古は隠したいのかもしれないのに 佐古のことを、櫻さんから聞こうとしている。 (それなのに、何でお礼を言われるんだ?) 〝?〟がいっぱいの俺たちに、櫻さんがクスリと笑った。 「〝佐古〟という名字は、彼の母方のものなんですよ。 本当の名字はまだ別にあります」 「ぇ、そうなんですか……?」 「はい。 彼のお父様は、彼が幼い時に亡くなっているんです」 そこからはお母様が彼を女手一つで育てあげ、彼が小学生の時に再婚しました。 「それが、今の佐古くんのお父様です」 (そ、うだったのか……) 「それから、彼には妹と弟ができました。しかしお母様は幼い兄妹に付きっ切りで、お父様の方も自分の子どもたちばかりを可愛がってしまったようで… 知らない間に、彼と新しい家族との間には大きな溝ができてしまったんです」 佐古くんの名字がいつまでも変わらないのは、きっと彼なりの反抗なのだと思います。 (あ……) 『ハル、ハル今日は調子がいいのね!』 『ちゃんと食べないと大きくなれないぞ?』 『はい、おかあさん、おとうさん』 母さんたちが、笑ってる。 3人で、楽しそうに。 それを、俺はいつも遠くから、眺めてて…… (佐古も、こんな気持ちだった?) 幼い頃の俺が、佐古と重なるーー 『アキっ』 (いや、違う) 俺にはハルがいた。 どんなに寂しくても、悲しくても。 ハルがいつも隣りにいてくれた。 (そうか、佐古は本当に一人だったんだ) ーー俺にとってのハルのような存在が、佐古にはいなかった。 「お父様の意思で、佐古くんは中学からこの学校に入りました。 しかし、ここでの空気に馴染むことができなかったのでしょう、彼は寮を抜け出し外で友人をつくるようになったんです」 外の友人の影響なのだろうか、彼は赤く髪を染めピアスもあけて、周りにだれも寄せ付けないような…そんな外見へと徐々に変わっていったらしい。 「私も、よく中学の寮へ指導に行ってたんですよ?」 「え、櫻ちゃん寮来てたの!? 全然会わなかった……!」 「ふふっ、私が行くのは消灯時間を過ぎてからでしたからね。佐古くん以外の生徒とは会いませんでしたよ」 そうなのかー!とイロハが驚いてる。 「でも、ここの学校に馴染めなかったって…当たり前だよね、それって」 「そうだな。普通の一般家庭に生まれて、いきなりこんなとこに入れられて。周りはみんな顔見知りみたく上辺だけな奴らばかりだし、孤立するのもわけ無いな」 「うん……おれたちも、もっと早く気づけたらよかったね」 「だな。佐古に申し訳ないな…」 「そんなことないよ。2人が落ち込むことない」 「っ、ハル……?」 「確かに中学の頃は気づけなかった。 けど、でも気づけた。それでいいんじゃないの? それだけで、僕は嬉しいと思う」 (少なくとも俺は、そう思う) もしも 本当にもしも 2人が〝俺〟に気付いてくれたら…… それだけで、俺は泣きそうに嬉しい。 そんな日は絶対来ないだろうけど。 佐古も、多分同じ気持ちだと思う。 「クス、小鳥遊くんは本当に優しい子ですね。 …彼も、本当は根はとても真面目で、優しい子なんです。彼がこんなに規則を破ってもここにいられるのは彼の成績にあります。通知表は出席点以外満点、テストは毎回上位の成績です。 恐らく、ここに通わせてくれているお父様への彼なりのお返しなんでしょう」 「そ、か…そうだったんだ…… でも授業出てないのに頭いいのはズルいよねっ!」 お前はテスト前になるといつもヒーヒー言ってるもんな。 なっ、それ今言うことじゃないでしょ!? ギャーギャー騒ぐイロハとハイハイとお茶を飲むカズマ、それをクスクス笑ってる櫻さん。 (俺は……) 「…ん? ハル、どうしたの?」 「疲れたか?」 「少し長く話しすぎましたかね?」 ハルには、 俺が少し黙るだけですぐにハルの事を心配してくれる人たちが…いる。 でも佐古には? 外には友だちがいる、じゃあここには? どんなに嫌でも通わなければいけない学校。 外の友だちは、ここまで着いて来てくれない。 冷めた目を思い出す。 (あいつは、まだ1人なんだ……)

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