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「ただいまー……」 静かな107号室。 今日は、佐古は帰ってこないらしい。 『君達3人に興味を持っていただいて、佐古くんに気づいていただいて、私は本当に嬉しいんです』 だから、有難うございます。 (お礼、言われた……) ただ話を聞きにいっただけだったのに。 ハルと同室にしたのは、櫻さんが顔見知りな入学生が佐古しかいなかったから。 佐古が、あぁ見えてもいい奴だと知ってたから。 そして、佐古があまり寮に帰ってこないから変に気を使う事なく生活できるだろう、という理由だった。 今日はあまり食欲がなくて、今朝佐古が食べなかったサンドイッチとコーヒーを淹れてソファーに座る。 「はぁぁー……」 ポスッともたれて、そのままソファーに沈んだ。 (俺、どうしたいんだろう) 佐古は、まだ1人だ。 外には友だちがいるけど、ここでは1人。 俺と佐古は、よく似てると思う。 ただ、俺にはハルがいた。 あいつにはハルみたいな存在の奴がいなかった、それだけ。 ーーでも、その差はかなり大きい。 (俺も、ハルがいなかったらあんな目してたんだよな。きっと……) 冷めた目、誰も寄せ付けないような雰囲気。 さっきまでは、どうでもいい存在だった。 もう絶対俺から声かけてたまるかって思ってた。 でも、もしかしたら俺もあぁなってたかもしれない。 そう考えると、まだ1人でいる佐古を放っておけない自分がいる。 『あの、どうしてここまで佐古くんの話を深い部分まで僕たちにしてくれたんですか? もっと浅く話してくださっても、良かったのに……』 別れ際に、どうしても疑問だった事を櫻さんへ聞いてみた。 『君達には、話しておくべきだと思ったんです。 佐古くんはあまり自分のことを話しません、先ず会話をする事自体難しいです。私は、もうずっと1人でいる佐古くんを見てきました。そんな彼に気付いてくれた…私のところまで聞きに来てくれた。 ーー今、話しておくべきだと思ったんです』 佐古くんは隠したかったでしょうが…… もしかしなくても、私は怒られてしまいますね。 『ふふふ』と申し訳なさそうに笑った櫻さんを思い出す。 (なんだか、佐古のお母さんみたいだ) まるで自分の息子のように心配してた。 本当、いい人だな。 学校に着いて、初めて話をした人。 頭を撫でてくれて、頬を包んでくれて。 ハルのカードで自分の部屋まで開けれるようにしてくれた…そんな人。 (ーー佐古と、向き合ってみようか) 話してくれた櫻さんの為にも。 そしての為にも。 もし俺にハルが居なかったと思うと、本当にゾッとする。 そんな世界に、佐古はまだいる。 (俺が、引っ張り出してやりたい) ハルみたいに 俺に暖いものをくれた櫻さんやイロハたちみたいに 今度は俺が、それを佐古にしてあげたい。 「ハル、ごめん」 これからする事は、ハルが楽しく学校生活を送るという事には関係のないことだ。 でも、俺が佐古を放っておけない。 だって佐古は、だから。 (俺は、ハルとして佐古に向き合う) あの冷たい目にハルを映りこませてやる、絶対に。 「おっし、待ってろよ佐古……」 ーー勝負だ。

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