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side佐古: 同室者は変な奴 1

『ヒデト君だね、よろしく。 今日から私が、君の父親だ』 〝大切にしてくれる〟って言ったのにな…… (はっ、所詮はそういうもんか) 元はと言えば、俺は最初からこいつが気にくわなかったのかもしれない。 外は楽だ。 変なお家問題とか、そんなの何も気にしなくていい。 あいつに入れられた学校は、俺には馴染めない世界だった。 耐えきれなくなって制服のまま外へ逃げたら、ガラの悪い奴らに絡まれて殴られ蹴られ好き勝手された後、財布ごと金を取られた。 『金持ち学校のお坊ちゃんが何でこんなところいるんですか〜?』 『喧嘩も出来ない奴が夜の街に来るんじゃないでちゅよ〜』 アッハハハハハ!! 何も反撃できなかった自分が惨めで、悔しくて毎日外に行って喧嘩をし続けたら、知らないうちに強くなった。 そのうち、だんだん話しかけられるようになってーー (あー今日寮帰んのか。 だりぃな…) でも帰んねぇと、櫻さんと約束してっし…… 櫻さんは俺と唯一向き合ってくれる先生。先生というか寮監だけど。 本当は高校の寮の先生なのに、わざわざ中学寮まで来てくれて、俺の事を心配してくれた人。 俺は、その人に全く頭が上がらなくて。 『高校から佐古くんの同室者になる子が、生まれつき身体が弱いみたいなんです。寮内や学校では私や先生方がいますが、部屋の中には君しかいません。あまり学校へ帰って来たくないのはわかってますが、3、4日に1度様子を見に帰って来てはくれませんか? 部屋で倒れたりしないか、心配で心配で……』 私も全力で佐古くんをサポートしますから、ね? 櫻さんにそうお願いされて、断れるわけもなく。 (しっかり何だよこのだるい設定は……) 病弱なそいつは、なんとあのTAKANASHIの息子ときた。 TAKANASHIくらい俺でも知ってる。 そこのとか しかも体が弱くて家からあまり出た事がないとか まじねぇわ。 絶対ぇ俺の嫌いな人種だ。 「おぉー佐古帰んの?乗ってく?」 「送ってくれんの? 乗る」 「おっけーほらっ」 バイクを持ってる奴にヘルメットを投げられ、後ろに乗って送ってもらう。 「佐古ーお前今年からコーコーセイじゃん。 どうなの? 最近よく帰ってっけど、次はダチできそ?」 「何ができっかよあんな学校で…」 「あはは!俺もお前あの学校通ってんの未だに疑問だわ、よく続いてんなぁ! まぁ俺はコーコー行ってねぇからよくわかんねぇけど、頑張れよ?」 「……おう」 あっはは!湿っぽくなんなばーか!! よく笑うそいつは、いつもの場所まで送ってくれてそのまま帰っていった。 学校に行きたくても行けない奴がいる。 その中で、俺は本当に恵まれてると思ってる。 だが…… (違う) 俺は、ずっとこうなのだろうか……… もう少しで消灯時間の寮の、107号室。 部屋には、あいつがいる。 (あぁーくっそ……) 3日前、あいつに初めて会った。 あんまり見ないようにしてたけど、俺に驚いた様子だった。 ここの学校の奴らはいつもそうだ。 明らかにガラの悪い俺を、避ける。 集まってコソコソ話して、上辺っ面でニコニコ笑う。 気持ち悪りぃ人種。 俺には一生理解できねぇ。 中学の時の同室者は、俺に怯えてばっかで全く部屋から出てこなかった。 今回のこいつも、多分そんな感じだろう。 (だりぃ……) だが、櫻さんと約束してしまった。 様子を見るだけ見て、前回と同じように部屋に入るか。 はぁぁぁ、とため息を吐いてガチャッとドアを開ける。 と、 「お帰りなさいっ!」 「ーーっ、は……?」 奥の方から、パタパタとエプロン姿のあいつが小走りに出てくる。 「今日は帰ってきたんだねー」 真っ直ぐと俺を見て、優しく笑うそいつ。 (な、んだ?) 3日前と、様子が違う。 「ねぇ佐古くん。今日はもう夜ご飯食べちゃった?」 「あ、いや……」 「本当に? よかった! 僕今日シチュー作ったんだよね。でも作りすぎちゃって。 一緒に食べて欲しいんだけどいいかなっ?」 (今、こいつって絶対ぇ強く言った) 「………いや、止めとく。部屋行くかrーー」 「んんんー?」 「っ……」 な、何だ…今、こいつの後ろに何か黒いものが…… 「あ、部屋にね、食器が無かったから佐古くんにも食器買ったんだー! 僕とお揃いなんだけどいいよねっ? その食器の使い心地も教えてほしかったんだよねっ。 じゃぁすぐ準備するから、早く靴脱いでおいで、ね?」 パタパタ、と軽やかにあいつが消えていった。 (な、なな……) な ん だ、あ い つ は 。

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