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「いただきますっ」 「……ます」
恐る恐るスプーンで一口掬って口に入れると、それは温かくて、優しい味がした。
(う、めぇ……)
「ふふっ、口に合いそう? 良かったっ」
僕シチューが1番得意なんだよね。あ、ブロッコリーとかグリンピースとか、ちょっと野菜多めだけどそこは気にしないで!佐古くん好き嫌いとかある?
食器の使い心地とかどうかな? これね、スーパーの食器売り場にあって、それでーー
(すげぇ…)
ペラペラペラペラ、本当によく口が動く。
真っ直ぐ俺を見ながらニコニコ話されるから、かなり気まずい。
(そう言えば、)
「でね?このサラダはーー」
「おい」
「……? どうかした?」
「もう消灯時間だろ。
何でこんな遅くに食ってんだてめぇ」
俺が帰ってきたのは消灯時間ギリギリ。
それなのに、こいつはこの時間に飯食ってる。
明かにおかしい、何でこんなに遅い?
「えっ、そんなの簡単だよ。わからない?」
「…?」
コトンとそいつはスプーンを置いて、俺に優しく微笑んだ。
「佐古くんを待ってたんだよ」
「……は?」
(何で、俺を?)
「3日前…だっけ? 佐古くんに初めて会った時、あんまり話せなかったからちゃんと話したいなって思って。せっかくルームメイトなのに会話が無いのはやっぱり寂しいし。
それに、僕は佐古くんと〝友だち〟になりたいから」
(は? 友、だち……?)
『どうなの佐古?次はダチできそ?』
『何ができっかあんな学校で』
(……馬鹿な)
この外見の俺と、このお偉いお坊っちゃまが友だちになる?
何言ってるんだこいつ。
「それに……」
(……?)
「1人で食べるご飯は、美味しくないから」
「っ、」
知ってる。
1人で食う飯が不味いのは、知ってる。
経験してきたから。
外のダチたちと初めて食った飯は、俺が家で食べてたものより遥かに質素なのにかかわらず、美味しくて美味しくて夢中で食った。
たくさん会話して、たくさん笑ってたくさん食って。
あの家では無かったものが、そこにはあった。
「ここは2人部屋で、僕と佐古くんしかいないんだし。
だから一緒に食べたいな」
あ、別に外に行くなとは言ってないんだよ?
でも、時々はこの部屋に帰ってきてほしいな。
はにかみながらえへへと言われて。
(何で、こいつの言葉は響くんだ?)
ひとつひとつの言葉が重い気がする。
こいつも、俺と同じ気持ちを味わったことがある?
家から出たことがない病弱なこいつが?
馬鹿な、どうやって?
こいつは
(一体何なんだ)
何で
「何で、そんなに俺と関わりたい」
「だから、さっき言ったじゃん。
僕は、佐古くんと友だちになりたいんだって」
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