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「わぁ、結構早めに出たと思ってたのに」 「すごい人だねぇ……」 「だな」 「………」 俺たちは、割と早めに寮を出た。 だが、クラス分けの掲示板の前は既に大勢の人で溢れかえっていて。 「すごい人だかり…これじゃ掲示板見えないね。どうしよっか……」 「あ、おれたち見てくるよ!ハルたちここで待ってて? カズマ行こ!」 「おう」 「あ、有難うっ」 「全然いいよー任せて!!」 「わー緊張するー!」と言いながら、あいつらは人ごみの中に消えていった。 人だかりから少し離れたところで、興味深々と言う様にキョロキョロと周りを見ているこいつの隣で待つ。 と、 『ねぇ、もしかしてあれが小鳥遊様?』 人ごみの中で、誰かが俺たちの方を見て言った。 『本当だ、見たことない子がいる。そうかもしれない』 『すっごい綺麗…お人形みたい……』 『キョロキョロしてて、何だか可愛らしいお方だね』 『本当に。ってか細っせぇな、折れそう』 『噂通りのお方なのかな』 ザワザワ ザワザワ それは一気に感染して、大きなものになっていく。 (あーくそ。うぜぇな………) 『隣にいるのって佐古?だったっけ。あいつの持ってる荷物って多分小鳥遊様のだよな、一体どんな関係なんだ?』 『あ、僕知ってるよ。確か同室者なんだよ』 『そうなのか。でもたかが同室者で荷物持つか普通…… ってか隣にいるし、あんな奴といて小鳥遊様は大丈夫なのかよ』 (違ぇよ、こいつから寄ってきたんだっての。 ったく…ただでさえ小鳥遊なのに俺に寄ってくっからもっとひでぇじゃねぇか……) こっちを見てヒソヒソ、コソコソ。 この学校特有のこの状況、俺の嫌いな人種の集まり。 いつの間にか、大勢の人だかりは誰一人として掲示板を見てる者はおらず。 ほぼ全員が俺たちを見ていて。 (あー…だりぃな。あいつら早く戻って来ねぇかな……) あからさまに俺たちの話しをしてる人だかりが鬱陶しくて、はぁぁとため息を吐きながら真逆の方へ視線を移した。 クンッ、とブレザーが引っ張られる感覚に何だとそっちを向く。 「っ、ぁ、ごめ……っ」 興味深そうにキョロキョロしてたハルが、いつの間にか俺のブレザーの端を遠慮がちにキュッと掴んでいた。 なんだか少し顔色が悪いような…… そんな固い表情で、掴んでる自分の手を見ている。 「ごめん」と謝ってるのに、その手は俺のブレザーを離そうとはしなくて。 それどころか小刻みに少し…震えていて。 (ーー嗚呼、そうか) スッと、体が自然とあの人だかりからこいつを隠すように前へ出た。 (こいつにとっては、全てが初めてなんだ) ハルはパーティーにも参加したことがないと、矢野元たちが言っていた。 だから、この学校特有の雰囲気を知らないと。 それに、こいつは外に出ることに慣れてない。 もしかしたらこんな大勢の人を見るのも初めてかもしれない。 もし、そんな状況でこの人数から一斉に注目されたら? コソコソと話すそれが、全て自分に関するものだったとしたら? (怖えぇよな、普通) さっきまでふわふわしながら隣を歩いてたこいつを思い出す。 (っ、くそが………) 突然俺がハルを背中に隠したから、人だかりの目が一斉に俺に向けられた。 それに、ギリっ!と強く睨み返してやる。 (見てんじゃねぇよ) この外見もあってか、それは効果てきめんでバッ!とあからさまに視線を逸らされた。 (ったく…これくらいで簡単に逸らせるなら初めから見てくんなっての……) なんなんだこの人種の奴らは…とため息を吐く俺の背中に、ポンッと何かがもたれかかってくるような感覚がする。 頭だけで振り返れば、ハルがおでこを俺の背中に押し付けていた。 「っ、ぁりがと……っ」 ブレザーを握る手は、まだ離れない。 「おぅ」と返事をして、そのままあいつらが戻ってくるのを待った。 「ごーめーんー!!遅くなった!」 俺が睨んだ所為でシィ…ン……と静かになったこの場所で、パタパタとこっちへ走ってくる丸雛の大きな声がする。 「おれたちみんな!4人とも一緒のクラスだよ!!」 みんなAクラスだった!やったぁー! 丸雛はニコニコ笑いながら、そのままハルの手を優しく俺のブレザーから離させて「行こ?」とその手を繋ぎ、歩き出す。 人だかりが、また一斉に煩くなった。 (ったくこの人種は…今度は丸雛と矢野元がハルと仲良いとか、俺らがAクラスだとか、その辺で盛り上がってんだろうな) ほんっと、金持ちって阿呆しかいねぇ。 そんな呆れた表情の俺の首に、ガシッと矢野元の腕が回ってきた。 「っ、なんだよ」 「さっきの、良かったぞ」 (あぁ?) さっきの…ハルを背中にやったことか? パッと前を歩く2人に目を向けると、丸雛が後ろを振り返って、親指を立てグー!とサインしてる。 (何なんだそれは……) 褒めてんのかそれ? 意味わかんねぇ。 ーーだが、悪くないと思った。

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