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「改めまして、小鳥遊様。 私の名前は月森 ミナトと申します」
「月森………」
「ハル、月森を知ってるのか?」
「え、うんっ。お父さんの秘書さんの名字が月森だけど……?」
それとどうゆう関係が…
「いつも叔父がお世話になっております」
「ぇ、」
「ふふふ。月森という名字には様々な語源がありますが、我々の名字は元々〝付守〟と書いてツキモリと呼んでいたそうです。
漢字の通り〝誰かに付き従い、その方をお守りする〟というのが由来でして、江戸時代より将軍の1番の側近として使えていた歴史書が家に残っております」
まぁ側近と言っても、裏方でしたので教科書等には出てきませんがね。
クスクス笑いながら、先輩が教えてくれる。
「そんな理由で、私の一族は皆、代々秘書として企業に仕えている者ばかりなのです。〝TAKANASHI〟にも〝龍ヶ崎〟にも、そして〝まるひな〟や〝矢野元〟にもおりますよ。 勿論、それ以外の有名企業にも必ずと言っていいほど月森が居ります。
私の一族に生まれる子は、歌舞伎の子の様に生まれた時から既に職業が決まっていますので」
「そう、だったんですね……」
「うんうん!それに月森の秘書さんはみんな凄腕ばかりなんだよ!だからね、企業はこぞって月森の秘書さんを自分の会社や側近に置きたがるんだ」
「〝一流企業に月森あり。〟って言葉があるくらいだからな」
「江戸時代から続く側近専門の一族ですからね。月森の名を汚す事の無いようにと、一族の者は皆、幼い頃よりそれなりの厳しい教育を受けてきております」
(そんなに凄い人たちの集まりなんだな…月森って……)
記憶の中のうちの月森さんは、どんな人だっただろうか。
俺たちが幼い頃は時々父の付き添いで屋敷に来てたけど、今は全く来ない。
背筋をピンっと伸ばして、父の斜め後ろを決して離れることなく歩いている印象しかなかったなぁ…
(でも、確か……)
一回だけ、幼い頃に一回だけ。
月森さんがある日屋敷へ来た時、ハルの分のお土産と一緒に俺の分のお土産まで買って来てくれた事があった。
『ぇ、おれももらっていぃの……?』
『えぇ勿論です。これはアキ様の為に買って来たんですよ』
『おれの、ため?』
『そうです。この月森、アキ様の事を思いながら一生懸命選んでまいりました』
どうか、受け取っては頂けませんか?
差し出されたのは赤茶色のテディベア。
ハルのはピンク色の様な、明るいベージュの様な、そんな色のテディベアで。
『わぁ!アキ、おそろいだよ!!』
『おそ、ろい………』
それは、生まれて初めての〝プレゼント〟で、同時にハルとの初めての〝おそろい〟の物でもあって。
『っ、ふっ、ぅぇえ……っ』
嬉しくて嬉しくて泣いてしまったんだ。
(あのクマは、どうしたんだっけ……)
嗚呼、そう。
初めて貰ったプレゼントで、ハルとの初めてのおそろいで
嬉しくて嬉しくて何をするにもいつも2人で抱きかかえてて
(それで、母さんに見つかったんだった)
『アキ!何なのこれは!!誰に貰ったの!?』
『っ、ごめ…なっ、さ……』
『違う!謝って欲しいんじゃ無いの、私は誰に貰ったのかって聞いてるのよ!!』
俺の分のクマだけ取り上げられて、それから返って来なかったんだ……
幼い頃の俺は、それはそれは泣いて
そんな俺を見てハルも『こんなのいらない!』って捨ててしまったんだった。
確か、その一件から月森さんは屋敷に来なくなったような気がする。
両親に何か言われているのだろう。
(今思い返すと酷いことしちゃったな……それに俺、あの時月森さんにお礼言ってない…ごめんなさいも………)
幼かったっていうのもあったけど、生まれて初めてのプレゼントでしかもハルとお揃いの物っていうのが嬉しくて嬉しくて、つい舞い上がってしまって。
(また、会える時来るかな……?)
記憶の中で優しく笑う、月森さんに
次また会えたら、あの時のお礼をちゃんと言いたいな。
「ーーぅ。ハールーぅ」
「はっ、」
「もぉーまたぼぉっとしてたでしょー」
大丈夫?家から帰って来たばっかりだから朝早かったし、もう疲れた?
心配そうにイロハの顔が覗き込んでくる。
「ごめん、大丈夫だよ! ぼぉっとしちゃうのいつもの事だし」
「無理はするなよ、ハル」
「そうですよ。キツくなったらすぐに仰ってくださいね」
先輩まで心配してくれた。
(な、何か心配してくれる人増えた……!)
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