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sideレイヤ: 俺の婚約者 1

『僕は、貴方のことを婚約者だとは認めておりません』 まさかこんな言葉が返ってくるとは、思いもよらなかった。 俺、龍ヶ崎レイヤは一言で言えば〝完璧〟だ。 幼い頃から、努力しなくても何でもできた。 数々の習い事では大会の上位入賞を果たし、学力においても申し分ない程の好成績という〝天才〟。 更に俺はあの日本を代表する企業〝龍ヶ崎〟の子で、容姿も端麗いう、正に絵に描いたような人物。 そんな俺だからか、幼い頃から気付けば誰かがいつも周りを取り囲んでいた。 俺が少し微笑めば歓喜の悲鳴が上がり、真剣な表情をすると感嘆のため息を吐く。 何かをしろと要求すればそのままに皆が動き、寧ろもっと命令をくれとせがむ。 抱いてくれと言われ抱けばそれはそれは喜び、僕も私もと寄ってたかって。 皆が俺を望み、より俺に近づきたいと俺の後を追いかけ、俺が何を言ってもキャーキャーワーワー言われる世界。 (あぁ、簡単だな……) 人のコントロールなんて、簡単すぎて反吐が出そうだ。 ピアノやバイオリンの方がまだ骨があった気がする。 (まぁ、それも難しくも何ともなかったが) 嗚呼、つまんねぇ。 (………こんなもんなのか、人の生ってやつは) 『お前は薄っぺらい人間だなぁ、レイヤ』 『………あ?』 『全く、父さんは悲しいよ。なー母さん』 『そうねぇ、あなた』 俺が高校2年へ上がる前、家でふと両親に言われた。 (俺が〝薄っぺらい〟だと……?) 『何言ってんだお前ら』 (俺は今年異例の2年から生徒会長になる予定なんだぞ? それを〝薄っぺらい〟だの、頭沸いてんのかこいつら) 『ふぅむ…そうだねぇ…… お前、何かを〝難しい〟と感じた事はあるかい?』 『あ? んなもんあるわけねぇだろ』 『何かに〝悩んだ事〟はあるかしら?』 『無い』 『何かに〝夢中になった事〟は?』 『無い』 『何かに〝喜びを得た事〟は?』 『無い』 『じゃぁ、何かにーー』 ダンッ! 『っせぇな!何が言いたいんだよてめぇらは!』 『クスクスッ、ほらな。 ーーお前には〝心〟が無いんだよ、レイヤ』 だから、〝薄っぺらい〟んだよ?

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