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「は?」 「聞こえなかったんですか? 副会長たちを生徒会室に呼び戻してくださいと言ったんです」 「いや、お前こそ俺が言った事聞いてなかったのか? あいつらを呼び戻すよりも俺1人でやった方が遥かに効率が良いんだ、何でわざわざ戻す必要がある? 別にいらねぇだろそんなん」 「何言ってんだこいつ」と呆れたように見てくる目を、真っ直ぐに見つめ返す。 「ーー貴方、馬鹿ですか?」 「…………あ?」 「何のための生徒会ですか?何のためのトップなんですか? 業務が全てではないでしょう」 「あぁ? ……何が言いたい」 (ここまで来ると甚だしいな) 本当に、この人は外側しか大切だと思ってない。 「僕たちは、1つのチームです」 〝生徒会〟という名の、1つのチーム。 「生徒会の業務をこなすのは〝当たり前〟です。その為のチームなんですから。 ですが、その業務をこなす過程でメンバーが困っている時、悩んでいる時は手を差し伸べるべきだ。チームとはそういうものです。貴方はそれのトップに選ばれた。本来ならばそれを貴方が率先して行わなければいけないのに、何をやってるんですか?」 「あぁ?チームだと? んなもん俺は望んじゃいねぇ。大体、仮にチームを組むんだったらもっと人選をすべきだ、あいつらは使い物にならねぇ」 ダンッ! 「だからっ! その考え方がいけないって言ってるんです!!」 会長の机を両手で叩く。 「チームなんて人選が出来る事もあれば出来ない事だってあるでしょう? 何でもかんでも自分の思い通りにはいかない。世の中にはそんな事がいっぱいある」 (そう、思い通りにはいかない事ばかりだ) ハルの事だって両親の事だって、婚約者の事だって。 俺は今まで全てを諦めてきた。 でもハルの事を思うと婚約者のこいつだけはどうにも諦めきれなくて、今絶賛立ち向かってる最中なんだけど…… (でも、俺の世界にはいつも選択権なんてもんは無かったんだ) 「今回のメンバーは学力や実力で選ばれている。選んだのは貴方じゃない、先生方だ。だからこれは貴方じゃ人選出来なかった事。それを、どうして受け入れようとしないんですか?」 「あぁ!? 何で受け入れなきゃならねぇんだ!あんな使い物にならねぇやつらは早々に生徒会に来なくなって正解なんだよ!」 「使い物にならないなら、貴方が育てれば良いでしょうが!!」 「……は?」 「使い物にならないなら、貴方が育て上げるべきだ。貴方にはその義務がある、だって生徒会長だから。貴方は僕に〝俺と同じレベルで業務が出来る〟って言いましたよね? だったら同じレベルまで副会長たちを育てればいいんです」 「…んで、俺がそんなだりぃ事しなくちゃいけない。ただでさえ俺は業務があって忙しいんだよ、それに会長だからって理由であいつらの面倒手取り足取り見れってか!?それこそ理不尽だろ!俺にはそんな義務はねぇ」 「それでも、貴方は了承して会長になった。トップは部下の責任を負い、部下の成長の手助けを行うものです。貴方も経営者の息子なら嫌という程知ってるでしょう? はっきり言って、今の貴方の考えでは今後社会に出て生きていけるとは思えません」 「っ!」 もし、この人がこのまま社会に出て社長になったら。 先ずはこいつ同等のレベルに達してない社員をことごとく切り捨てるだろう。 そして自分はこれくらいなんてことないと思う量のタスクを部下へ回し、下はそれをこなす事が出来ず、厳しさのあまり退職者は増え続け。 結局…こいつ1人がポツンと会社に残るのが簡単に想像できる。 「学校だって1つの社会です。その部署ひとつまとめきれてない貴方なんて、この先死んでいくのが目に見える」 「っ、……ほぉ、言ってくれんじゃねぇか…」 ゆらり、と会長が立ち上がり机越しに睨んでくる。 「じゃぁ俺にどうしろと? 今の業務全部そっちのけであいつらの面倒見ろってか? 大体、やる気のない奴らにどうやってーー」 「そんなの簡単です。 〝外側〟じゃなく〝内側〟を育てればいいんです」 「ーーは?」 (嗚呼、全く) しょうがないなぁと微笑み、会長を見つめる。 「恐らく内側なんて貴方の不得意分野でしょう? でも、内側を育ててマインドを育成し、仕事に対してのモチベーションを上げなければ皆んなは付いて来ません」 「っ、内側なんざ自分でどうにでもなるもんだろ。そんな目に見えない部分をどうやって変えられる」 「クスッ、 内側は目に見えますよ? 貴方が見ようとしてないだけだ」 「あぁ?」 「理解しようとしてないからですよ。だから貴方は内側じゃなく外側だけで人を判断する。 僕にだってそうでしょう?」 「………」 何も言わずに、押し黙ってしまった会長。 俺も、何も言わずただただ見つめる。 少しの沈黙が生徒会室に流れた。 ーーやがて。 「……っ、ククク…そうだなぁ小鳥遊。俺は確かに外側しか見ない、それで判断してこれまで生きてきた」 「会長……」 (わかって、くれたのかな?) ほぉっと安堵の息を吐いて、ゆっくりと会長を見つめる。 「お前の事も、俺はせいぜい外側しか理解していないしするつもりもない。 だが、お前がそんなに内側内側言うならお前の内側を理解してやってもいい。 ーーだから」 グイッ! 「ぇ、」 ダンッ!! 「教えてくれよ。この俺に、お前の〝内側〟ってやつを。 ーーお前のカラダでな…?」 バチバチバチ!!と凄い音がしてシャツのボタンが引きちぎられ シャンデリアの光を浴びて、キラキラと綺麗に飛んで行った。

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