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sideタイラ: 小鳥遊親衛隊のお茶会

勉強会のお陰でテスト勉強が順調に進む ある日の放課後。 「ごめんっ、今日は放課後〝お茶会〟があるんだよね。だから勉強会遅れるっ。終わったらすぐ参加するから」 「申し訳ありません、行ってまいりますっ」 「はーい!ハル、タイラちゃん、頑張ってね!!」 「今日は図書室でやってるから」 「わかったっ」 「かしこまりました!」 本日は、2週間に1度のお茶会の日。 (もう随分慣れたご様子だな) 「ハル様、今回の参加者リストです」 「うん、ありがとタイラ」 食堂へ向かいながら、ハル様は今回の抽選で当たった人たちを素早く確認していく。 ハル様は自分の親衛隊にしか入っていない人たちを既に全員暗記済みだ。 だから、覚えるのは掛け持ちとかで入ってる当たった人だけ。 (今回は、Cグループが参加予定だ) ハル様の提案通り、ハル様の親衛隊のみに入っている人たちは4つのグループにわけで順番にお茶会へ呼んでいる。 「…あれ、この先輩………」 「? どうかされましたか?」 参加者リストにはそれぞれの特徴などが細かく記載されていて、作ってる月森先輩は本当に凄いと思う。 「んーん、ちょっとね~……」 「…………?」 (どうしたんだろ) 事前に確認したけど、特に変な所は無かったけどなぁ。 ガチャッ 「お待ちしておりました、ハル様」 「こんにちは先輩。お茶会の手配ありがとうございます」 「クスッ、いいえ。毎度の事ですので」 親衛隊のお茶会は、基本的に食堂を貸し切って行われる。 それぞれの隊との日程調整や人数分のお茶やケーキの手配などは、全て僕たちが担当だ。 「先輩、お茶会が始まるまでにまだ時間ありますよね?」 「? えぇ、御座いますが……」 「ちょっと相談なんですがーー」 (……? 何の話をしてるのかな) 2人でキッチンの方へと歩いていくのを見送って、僕はウェイターさんと一緒にティーカップやお皿を並べた。 間も無くして、お茶会が始まった。 Cグループのメンバーと今回厳選なる抽選で当たったメンバーが、一斉にわぁっと入って来る。 「小鳥遊様っ。このような会を開いてくださり、有難うございます」 「お隣座ってもいいですか……?」 「はいっ、勿論ですよ。 この会を開くにあたっては僕だけの力だけじゃ無いので、月森先輩やタイラにも後でお礼を言ってくださいねっ」 「はぃっ!」 (………すごいな……) さり気無く先輩や僕の事も話してくれるハル様は、やっぱり凄いと思う。 そのままわいわいとお茶会を楽しんで、その間ハル様は何度も何度も席を移動されて。 僕と月森先輩も、そのサポートをする。 「ーーハル様、準備ができました」 「ぁ、有難うございますっ」 (……? 何だろう) 月森先輩の声に嬉しそうに笑って、ハル様は席の端っこに座っている人の元へ向かった。 「先輩っ。こんにちは」 「っ! 小鳥遊様……」 「お隣いいですかっ?」 (あの人は、確か今回の抽選で当たった3年生の先輩だ) 「テストが近いのに勉強の合間を縫って来て頂き、有難うございます」 「いいえっ! 息抜きにもなりますし丁度いいです」 「本当ですか? 良かったです」 ほわほわ~っとした会話に、参加メンバーもみんな和やかな雰囲気になる。 「お茶も、とても美味しいです」 「わ、良かったです! これは矢野元という僕の友人がオススメしてくれた物でして」 「矢野元!? それは美味しい筈だ…! こんなにお茶も美味しいんじゃ、きっとケーキも美味しいんだろうなぁ」 クスリッ、と少し寂しそうに先輩が笑った。 「申し訳ありません小鳥遊様。俺、ケーキが食べれないわけじゃ無いんです。ただ、アレルギー持ちで……」 「はい、承知していますよっ」 「だから…って……え?」 目を丸くする先輩に、クスクス笑うハル様。 「卵アレルギー、なんですよね? 気づくのが遅れてしまいました、すいません……」 「い、いえ。いつもの事だからいいんです」 「ダメですよっ、全然良くありません。 ーー月森先輩」 「ふふっ。 ーーはい、ハル様」 コトリ、と先輩の目にお皿が置かれる。 「こ、これ……」 そこには色とりどりの綺麗なケーキ達が、ちょこちょこと並んでいた。 「テーブルに並べられてるケーキと違う種類でごめんなさい。急いで準備したんですが、どうしても同じものを用意する事が出来ませんでした……」 「た、小鳥遊様…これってもしかして……」 「はい、そうです。卵を使っていないケーキです」 (!! そうか……!) 食堂へ向かう途中にハル様が呟いたのは、この事だったんだ。 そして、着いて早々月森先輩と相談してコックさんに頼みに行ったんだ。 (………凄い……) たかだか抽選で当たった、純粋に自分の隊に入っていない人にさえ気を配ることを欠かさない。 (僕も、まだまだだなぁ……) 目をキラキラさせて嬉しそうにお礼を言う先輩と、同じく嬉しそうに笑うハル様を見て、僕ももっともっと大きくならなきゃなと思う。 コソコソ…… 「やっぱ、小鳥遊様って凄いよな」 「あぁ。大企業の息子なのに何であんなに人柄が良いんだろうな」 「本当、尊敬しちゃうよね……」 ポツポツと、やり取りを見ていたメンバーの声があちらこちらから聞こえる。 (あぁこれは、また正式入隊が増えるだろうなぁ) お茶会の後は、抽選で当たった人たちが毎回毎回正式に入隊したいと月森先輩と僕の元まで駆けつけて来る。 えぇっと…リストを組み直してメンバー表を改めて作り変えて、また次のお茶会の手配と…… またやる事が山積みになってチラリと月森先輩を見ると、「しょうがありませんね」というような苦笑が返ってきて。 僕もえへへと笑い返した。

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