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「ーーここです、小鳥遊様」
「ぇ、ここ…なの? 保健室なんじゃ……」
「保健室よりこちらの方が近かったので。小鳥遊様お辛そうなので、少しでも近い方がいいかと……同じ薬がこっちにもありますよっ」
「そっか、有難う」
(直ぐに教室帰りたいし、こっちの方が教室まで近い分有難いか)
早く帰んないとイロハたちにバレちゃいそうだ……
案内されたのは〝救護室〟と呼ばれる文化祭限定の教室。
たくさんの来場者で学園中が賑わうので、何処かで気分が悪くなったり体調不良者が出た時直ぐ駆け込めるように各場所へ救護室と呼ばれる小さい保健室のようなものが作られている。
そのうちの1つに案内され、カラカラ…とドアを開けた。
「失礼、します……」
(…………ん?)
何だろう…これ……何か、花の匂い?がする……
誰もいなかった救護室。
その教室の奥の方から、何かの花のような不思議な香りがする。
「小鳥遊様っ。ほら、早く椅子に座られてください。少しでも休んで」
「ぁ、うん、そうします」
教室のドアを閉めて、中央の椅子まで歩いてゆっくりと腰掛けた。
(何か、この辺り凄い匂いが強い………)
微かに香る程度の匂いだったらまた良いけど、ここまで強烈だと流石に辛い。
「ね、ねぇ。これ…何の香り……?」
「あぁ、これですか? ここに来られた方々に少しでもリラックスして貰おうと思って花の香料を焚いてるんですが、どうですか? 少し落ち着きません?」
「う、うぅーん……」
(落ち着くというより、ちょっと匂いがキツすぎて、鼻押さえたい…かも……)
「薬持って来るので、ちょっと待っていてください」と保健委員さんは向こうの方に行ってしまった。
(何か、ぼーっと…する………)
気分悪い所為かな……頭にほわーっと白い霧がかかるような、そんな感覚。
これは、いよいよやばいんじゃないかな。
俺こんなに弱かったっけ?
自分の限界は理解してるつもりだったのになぁ…今回も倒れる前にちゃんと教室離れて準備室行ったし……
(準備…室……)
あぁそうだ、そう言えば教室早く帰らなきゃいけないんだった。
凄い行列のお客さんを、対応しなきゃ。
(早く、薬……)
「あの、薬は見つかりましたか?」と手を上げて訊こうとして
「ーーっ、あ、れ……?」
(手に、力が入ん…ない………?)
ぇ、嘘、ちょっと待って。
何度もグググ…っと力を入れてみても、小刻みにカタカタ震えるだけで全然動いてはくれない。
(ぇ、何で……? ぁ、足は…足は動く……?)
「ぁ、だ…めだ……」
両足に、力が入らない。
体全体に力が入らなくなって、自分の力で座ってることも難しくてポスッと椅子の背もたれに寄りかかってしまう。
(な、なに…これぇ………)
頭の奥の方からぼーっとしてきて、だんだんと思考が溶けていくような感覚に陥る。
(まっ、て…うそ……なに………?)
何処かで、けたたましく赤信号が点滅してる。
でも、それよりももう…目を開けてること自体が辛くなってきて。
「ぁ、だめ……っ」
「ーー良いんですよ、小鳥遊様」
ズイッといきなり目の前に出てきた、保健委員さんの顔。
「大丈夫…クラスのことも何とかなりますよ。だから抗う事なく寝ちゃってください……
ーーーーハル様っ」
「…………ぇ?」
(今の、聞き間違い…か……?)
「ぁ……ぅ、………」
「嗚呼…もう言葉も発せない程眠いのですねっ、ハル様。
本当、なんって可愛らしい……っ!」
(ーーっ、ぁ、嘘)
今、分かった。
必死に体を動かそうとするけど、もう…無理で。
(っ、駄目だ……)
どんどん瞼が落ちてきて、逆らう事が出来ず視界が暗くなっていく。
「ぁ……、ゃ………」
「クスクスっ。お休みなさい、ハル様ぁ」
保健委員さんの、俺を見つめるその目は
いつも感じていた、変質者から貰うあの視線と
全く、同じだったーー
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