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sideレイヤ: 予想外の状況 1

「っ、くそ!!」 (何で……こんな事になってる!?) 守りは完璧だった筈。 なのにーー 〝犯人は、1年の生徒である〟 これは確実だ。 だがそのクラスと人物までは特定できなかった。 A組ではないと梅谷先生が確かな根拠を持って言っていたから、今回は省かれる。 ……とすると、残るはB~Fの5クラス。 実はみんなで調べ上げた土日以降も、俺・月森・梅谷先生・櫻さんは毎夜集まり、文化祭が開催されるまでの期間で既に5クラス分の名簿を全て調べ尽くしていた。 だが、その中に変質者らしい人物は見当たらなかった。 「おかしい人物は、いねぇなぁ……」 「を見落としていますね…これは……」 「そのようですね……」 「一体、何だ……?」 〝何か〟 その〝何か〟に、俺たちは気づけていない。 「……っ!」 「そうカリカリすんな龍ヶ崎。一旦犯人探しから離れるぞ。文化祭当日の事を決めよう」 「そうですね。他のことを考えてから再度また取り組んだ方が、何か見えてくるかもしれません」 「…あぁ、そうだな……」 「当日は、どうするんだ?」 俺たちにその存在がバレてからパッタリと動くのをやめたところを見ると、恐らく奴は狙いを文化祭に定めている。 大量にやってくる来場者や活気のある雰囲気に紛れて、ハルに接触しようとしている筈だ。 「文化祭は2日間。 その期間中は、絶対あいつを1人にさせない」 先ずはあいつらのクラスが着替えたりするのに使う準備室。外からの視線を完全に遮断できるよう、全体に暗幕を貼ってもらう。 「そして、佐古には廊下担当になってもらっている」 実際にクラスでも満場一致で決まった役回りらしいが、これは元々梅谷先生が事前に佐古へ頼んでいた。 「教室に入る客の中に怪しい奴がいないか見張れ。お前が不審に思った奴は教室に入れるな」と指示している。 これで、あいつの教室の中は安全なクラスメイトと佐古によって見定められた客しか入れなくなる。 「クスクスッ、佐古くんのことを信頼しているのですね、龍ヶ崎くん」 「まぁ……並みの奴らに任すよりは遥かに安心できますからね」 「ほぉ…あの龍ヶ崎がそんな事を言うとはぁ、クックッ」 「何だか嬉しいですね、梅谷先生」 「そうだなぁ櫻」 (あんたらは親かよ) まぁ…先生たちと佐古の関係はだいたい聞いてっから別にいいが…… ハルのシフトが空いた時間は、俺と一緒に文化祭を回ることになっている。 俺が生徒会の仕事で抜ける時は、月森が付く。 梅谷先生と櫻さんも先生として文化祭を回る義務がある為、参加しながら不審な人物がいないか警戒してもらう。 〝ハルには、極力文化祭を楽しんでもらいたい〟 ーーこれが、今回俺たちが出した結論だ。 あいつは、体育大会で一歩も生徒会室を出ることが出来なかった。 何てことないメダルをあげた時のあいつの顔を見て、「文化祭では思う存分楽しませてやろう」と心に決めていた。 〝客を楽しませる側の役〟も〝自分自身が客として楽しむ側の役〟も、どちらもめいいっぱい楽しんでたくさんの事を感じ思い出を作って欲しいと思っている。 今まで屋敷から出られなかったハルが、初めてちゃんと参加できる大きな行事。 だから、本当は俺たちの見えるところにずっと閉じ込めておきたかったが…最大限譲歩した。 ハルを、なるべく俺たちが作り上げた枠の中で自由な状態にさせる。 その枠は本当に完璧で、何処にも抜け目がなかった。 はずなのにーー 「おい、どうなってやがる!」 あいつは、どうやらその完璧な枠の中を抜け出したらしい。 ハルと一緒に外へ出たクラスメイトが、念のためと教室に戻って直ぐ丸雛たちに共有してくれた事により発覚した。 まさか内部から出られてしまうとは……これは、想定外だった。 「ハル様を連れて行ったのは〝保健委員〟を名乗る小柄な細い生徒だったようです」 タイラからの情報なのか、一緒にハルのクラスの準備室へ向かう月森から事前に軽く説明を受ける。 準備室のドアを思いっきり開けると、既にメンバーは全員揃っていた。 「元々小鳥遊くんは何か気分が悪かったみたいで…っ」と、一緒に出たクラスの奴が梅谷先生と話している。 「な、何かすごい焦ってて…それで気分転換に俺と一緒に外行きたいって……っ、俺はちゃんと3人に言った方がいいんじゃないかって提案したんですが、何か隠したかったみたいで…… それで外出て…でも結局治んなかったみたいで……で、そこに保健委員が」 「その保健委員とやらの顔を、お前は知っていたか……?」 「……いえ、見たことありませんでした」 「…そうか。わかった、有難うな。お前はもう持ち場に戻っていいぞ。 みんな、悪いが怒らないでやってくれ。責任は俺が負う」 「っ、今はそれどころじゃないです、先生」 (そうだ、今は怒ってる場合じゃない) やられた。 まさか文化祭始まって初っ端から仕掛けられるとは。

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