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「ねぇ、ヒデト。
お母さんね、再婚しようと思うの」
「さい…こん……?」
「クスッ、もう一度結婚するという事よ」
「ぇーー」
俺が小学校中学年…3年生の頃。
仕事から帰ってきたお母さんに、突然言われた。
「実は、前々からお声かけ頂いてたのだけど私が待ったをかけていたの。諦めるかと思ったのだけど、そしたら本当に…もう2年も待ってくれていて。
だから、一度ヒデトと会わせてみようかと…思って……」
俺のお父さんは、俺が小学校に上がってすぐ病気で亡くなった。
ごくごく一般的な普通の家庭に生まれ、当たり前のように毎日を楽しく過ごしてきたが、これは当たり前じゃなかったのだと子どもながらに実感した。
それからは、1人で家計を支えるお母さんに心配かけまいと、勉強も頑張って友だちもいっぱいつくって。
自分がお母さんを守るんだと、そう思って生きてきた。
なのにーー
「…お母さん、もう一回結婚するのか……?」
「……うん。ヒデトがいいなら、お母さんはそうしようと思ってるのだけど………」
(俺が、いいなら……)
「…お母さんは、それで幸せか?」
「っ、そう…ね… とても幸せだわ……」
何かを思い浮かべるようにして笑ってるお母さんを見て、キュッと胸が鳴った。
「……わかった。その人に会うよ、俺」
「本当に?無理してない…?」
「うん。その代わり……
新しい人ができても、お父さんのこと忘れないでいてあげような?」
「ーーっ、勿論よヒデトっ」
ぎゅぅぅっと、きつく抱きしめられた。
小学生の俺が見ても、一目で高級だとわかるホテル。
その中にあるレストランで待ち合わせの予定らしく、お母さんと一緒に予約席に座った。
(すっげぇ…こんなとこ初めて来た……!!)
煌びやかなシャンデリアにふかふかの椅子・ゴージャスそうな花瓶の中には見たこともない花々が飾られている。
(……た)
た…た、た…!
(探検、したい……!!)
めちゃくちゃ探検したい……!
すげぇなこのホテルどうなってんだ!? やばすぎだろ!
「俺ここ行ったんだぜ!」って、学校のみんなに自慢しなきゃ!!
「クスクスッ、ヒデト楽しそうね。少し見て回る?」
「ハッ! い、いやっ、いい!」
「えぇ~何でよ、凄い目がキラキラしてるじゃない」
「キっ、キラキラなんてしてねぇし!俺はそんなお子様なんかじゃない!」
「あら、も~〜。
それじゃぁお母さんが見て回りたいから、一緒に着いて来てくれる?」
「!!
し、しょうがねぇなぁ…それなら着いて行ってやるよ!」
「ふふふっ。じゃぁ行こっか、ヒデト」
「おう!」
「待ってました!」とばかりにバッ!と立ち上がって、お母さんの腕を取る。
そのままグルンッと勢いよく後ろを振り向くとーー
「おやおや、何だか邪魔をしてしまったようだ」
そこには、高そうなスーツを着こなした背の高い男の人が立っていた。
(ーーっ、この人!!)
え、え、待って。
これ…なんかの夢か?
(何で、こんな有名人がここに居るんだ!?)
「あっ」
お母さんがハッとした声をあげる。
……え? もしか、してーー
この人……なの、か………?
(嘘…だ、ろ……)
「ごめんなさいね、バタバタしちゃってて」
「いや、構わないよ。
それよりもいいのか? ホテル内を見て回ろうとしてたんだろう?」
「そう、ね……
ヒデト、ごめんね? 後からでも良いかしら」
今目の前で何が起こっているのかがまだよく理解できず、コクコクッと無意識に首を振る。
「良かった……それじゃぁ、もう一度座りましょうか」
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