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「………はぁぁぁ……」
番号が載っているスマホの画面を、何もせずに閉じる。
(今日も、電話はできねぇな)
小学生の頃飛び出したあの屋敷。
あれから、一度も両親には会っていない。
母は、元気なのだろうか?
顔も見てない弟は、大丈夫だったのだろうか。
妹の顔すら……もう思い出せねぇな。
そして、父親もーー
(あいつは後継を望んでたから、もう、多分他の奴に目星が付いてんだろ)
俺より優秀な奴なんかゴロゴロいる。
とっくの昔に、あいつは俺の事なんか忘れてるはずだ。
だがーーーー
ハルに会ってから……
ハルによって出会った人たちに、会ってから
俺の世界は、一気に広がった。
みんながみんな、各々に抱えているものがあることを知って
それと戦っているということを知って
逃げていた自分が、酷くちっぽけな存在なんだと……思った。
(もっと、強くなりたい)
体ではなく、心が。
心が強い人間に、なりたいと思う。
高校生になってから出会ってきた、あいつらのように。
『俺は、お前らとは家族なんかじゃ、ないっ!』
『お前らなんか、全員いなくなればいいんだ!!!!』
(あぁ、本当に……)
酷いことばかり言って、出てきてしまった。
わだかまりのように、それがまだ胸に突き刺さっている。
「…………親父……」
俺は、まだ面と向かってはそう呼べねぇだろうけど。
もう俺の事なんか家族と思ってねぇかもしれねぇけど。
(いつか、あの時言った言葉を謝りに行くことくらい…許してもらえるだろうか)
「はぁぁ…部屋、帰るか……」
いい加減に電話しなければと思いながら、結局今日も電話せずに終わっていく。
(ははっ、俺弱えぇなぁ…ったく……)
いつか、いつか……
せめて、俺が高校を卒業するまでには…どうにかケリをつけなければ。
(もう3年も前の事なのにな。今更遅いと言われるだろうか)
それでも、別にいい。
俺は、自分のけじめの為に謝りに行きたいだけだ。
(ま、取り敢えずは卒業までに後2年あるし、んな焦んなくてもいいか……)
「くぁぁぁ」っと欠伸をしながら部屋への道のりを歩いた。
だが、
その電話の瞬間は、思いも寄らず 案外すぐにやってきて
それも、驚くほど危機迫って架ける事になるのを
俺は、まだ知らないーー
【番外編】〝佐古〟ヒデト fin.
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