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【さよなら編】sideアキ: 初めての、罪悪感

【さよなら編】 (………落ち着け、落ち着け俺……) 緊張してカタカタ震える体を、服の上から翡翠のネックレスを握ってどうにか抑え込む。 ハルには、絶対バレないように…… 大丈夫、言わなきゃバレないから…だから。 「ーーよし……っ」 ガチャッ 「お帰りアキっ!」 「っ、ただいま、ハル!」 朝。 レイヤの部屋から帰って来て、俺は今日帰る日なんだと思い出した。 とにかく急いで着替えて準備して迎えの車に乗り込んで、息を吸うのさえ難しいくらいに緊張しながら屋敷に到着した。 〝ハルに、嘘を吐いた〟 生まれて初めて、ハルを裏切った。 その事実が…深く心臓に突き刺さっていて。 (でも) 昨日の、あの時間は…… 後夜祭での、あの瞬間のレイヤは ーー確かに〝俺のもの〟だった。 レイヤは〝ハル〟だと思ってるけど、でも、それでいい。 俺だけが知ってれば、いい。 この独りよがりのどうしようもない事実だけは、どうしても…譲りたくないんだ……… 「アキっ。はい、ぎゅー!」 「クスクスッ。はい、ぎゅーっ」 いつものようにベッドまで行って抱きしめ合うと、ピクリとハルが身動いだ。 「アキ…痩せた、よね?」 「ぁ、そ、そうかなっ」 「どうしたの、何か……あったの」 「えぇっと…その……」 ワントーン下がった、ハルの声。 伺うようにじぃぃ…っと見られて、冷や汗が出てくる。 (そうだった、あの件は屋敷には回ってきてないんだ) やばい。 ハルには絶対気づかれるのがわかってたのに、朝バタバタし過ぎて何も言い訳を考えてなかった。 (ど、しよ……っ) こういう時、どう言えばいいんだろう。 なんて言って誤魔化せばいいんだ? (なんて、言ったら………) ーー昨日の事に繋がらないように、話ができる……? 「ーーーーキ、アキっ、アキっ!!」 「っ、ぁ」 目の前いっぱいに、ハルの顔。 「アキ、大丈夫だから。 僕別に責めてないし、だから落ち着いて? ゆっくり息吸おっ、ね?」 「ハ、ル……」 同じ大きさの手が、ゆっくり背中をさすってくれる。 その手が、酷く…優しくて…… 「ーーっ、ぉ、れぇ…っ」 「うん、アキ」 「ぉれっ、おれ……っ!」 「うん、大丈夫だよ、アキ」 なんにも言ってないのに ひと言も、何も言ってないのに ハルはふふふと笑って、俺をふわりと抱きしめてくれた。 (っ、ハル……っ) 安心して、でも胸が痛くて…もう消えてしまいたくて ぐるぐると罪悪感に押しつぶされてしまって それはポロリと、簡単に溢れ落ちて来た。 「ぅ、ふぇぇ……っ、うわあぁぁぁぁっ!」 (ごめんなさい、ハル) 嘘ついて、ごめんなさい。 言えなくて、ごめんなさい。 (俺、最悪な弟だね) 俺の独りよがりの意地が、ハルまで困らせてしまってる。 でも、どうしても…… あの時間だけは、俺のものであって…ほしくてーー (~~~~っ、ごめんなさぃ、ハルっ) 訳もわからず泣き始めた俺の事を ハルはずっとずっと、抱きしめてくれた。 「アキ、落ち着いた……?」 「………ぅん…ハル……」 「ふふっ、泣き疲れちゃったねぇアキ。 ちょっと寝よっか」 「…ん、ねる………ハル……」 「ん、なぁに?」 「……ぅ、そ…つい……め、な…さ……」 「? ふふ、いいよ。 ゆっくりおやすみね、アキ」 朝バタバタして極度の緊張に見舞われた事もあってか、一気に猛烈な眠気に襲われて。 優しい声に誘われながら、ゆっくりとハルのいるベッドへ横になった。 さわり さわりと、頭を撫でられて (ハル………) そのまま、眠りの中に……落ちていったーー

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