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sideレイヤ: 春-ハル- と 秋-アキ- 1
カサリ カサリと、森の中を進んで行く。
学園に着いて両親の乗る車を見送った後。
「少し夜風にあたりたいので、散歩して帰ろうかな」と言うハルに「じゃぁ俺も」と付き添った。
(〝夜風にあたりたい〟って、今の季節に使うもんじゃねぇだろ)
普通、夏に使う言葉だ。
今の季節だと寒くて背筋が震える。
それなのに、あいつはどんどん どんどん歩いていって……
(この道のりは、多分噴水だな…)
あいつ本当にあの場所が好きだよな。
少し前にいるハルの背中を、静かに見つめる。
ポソッ
「あぁ、小せぇなぁ」
小さな背中。
薄い肩。
細い腰。
それらが、儚さを醸し出しているのだろうか……
(今にも消えてしまいそうだ)
『レイヤ。あの子をよく見ておくんだ』
お袋に抱きしめられるあいつを見ていた時、親父に言われた。
『は? 何でだよ』
『クスッ、何でだろうねぇ。でもね、よく見るんだレイヤ。ーー後悔してしまう前に』
『後悔………?』
その後は、結局親父がふざけ始めて聞くことは出来なかったけど。
(あれは、どういう意味なんだ………)
あの子を、よく見る。
ハルを、よく見る。
(お前らよりよっぽどちゃんと見てんぞ、俺)
まだ、何か見えてねぇところでもあんのか?
(見えてねぇところ……内側、か?)
あいつの内側は、ーー優しい。
優しくて強いのに、時々それを酷く脆く感じる時がある。
それなのに、いつもいつも他人ばっかりで自分を蔑ろにして、傷ついて。
それが、見ていてとてもーー切ない。
(〝切ない〟か………)
最近、あいつの雰囲気が少し変わったように感じる。
いつも通りに笑って、楽しく過ごしているのに。
なんだか、元々あった儚さが…もっと増したような……
噴水に着いて、
その淵へ近づこうとするあいつに「ハル」と呼びかけようとして、ふと止まった。
(〝ハル〟…………?)
どうして、こいつはそんな名前なんだろう。
ハルは ーー〝春〟という季節は、寒い冬から暖かい夏にかけての間にある季節のことだ。
木々には緑が溢れ、色とりどりの花々が咲き、動物たちは冬眠から覚め始め、人々は来季に向けた準備をしだす。
そんな、沢山のワクワクする喜びが詰まった季節のことだ。
だが、こいつはどうだろう?
こいつの内側は…寂しげで、切ない。
ふとすれば消えてしまいそうなほど…儚くて……
まるでそれは、暖かい夏から寒い冬へと向かう間の…
木々から葉が落ち始め、花々も地面に還り、動物たちも冬眠の準備を始めるような…
人々がだんだん外へ出ることを嫌がり始め、何故かふとした瞬間に切なさを感じてしまうような…
そんな、 ーーまさに〝今〟の、季節のようで。
「なぁ、ハル」
噴水を見るあいつの後ろ姿に、声を掛ける。
……それは、単なる思いつき。
でも
俺は、この日を一生忘れないと思う。
「お前ってさ、
ーー春 より秋 って名前のほうが、しっくりくるよな」
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