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「…………」
「いや、何かお前の〝内側〟って、
〝春〟というより〝秋〟っぽいよなって……」
「…………」
「……?」
(反応が、ねぇ……)
噴水の方を見たまま微動だにしない後ろ姿に疑問を感じて、あいつの前へ回り込む。
「ーーーーっ、」
(な、)
そこには、
何かを必死に押し殺しているかのように両手を口に当て、苦しそうに顔を歪めているのに、びっくりしているような表情で、涙を流している…
ーーそんな、ハルの顔があった。
「ハ、ハル……?」
「~~~~っ!」
(言葉が、声になってねぇ)
一体どうしたんだ。
いつもだったら笑って「冗談よして下さいよ」と言われるはずなのに。
それを、期待していたのに。
「ハル…どうしたんだ……?」
口を押さえたまま黙って泣いているハルの震える肩に、そっと手を添える。
「俺が、名前でふざけたのが気に入らなかった?」
ブンブンッ!と強く首を振られた。
「急に後ろから声かけたから、驚いた?」
「言い方が、嫌だった?」
「名前を付けた両親に、会いたくなった?」
「屋敷が、恋しくなった?」
次々と浮かぶ疑問に、全て首を振られる。
(じゃぁ、何なんだよ……)
一体…お前は何で、そんなに切なそうに泣いてんだーー
秋風が冷たく吹く、森の中の噴水前。
冷たくなっているこいつの体を暖めてやろうと、小さな体に腕を回して俺の体に引き寄せる、と。
ポツリ
「ーーちが、ぅん、ですっ」
「……なにが?」
「嫌だ、とか…そんなんじゃ、なくて……っ」
「うん」
「ただっ、…… ーーっ、」
その後の言葉は声にはならず、まるで縋るように…俺の服を握る手にギュッと力が入った。
それが、酷く儚く感じて。
声にならない声を上げて泣くこいつを
ただただ、抱きしめてやった。
「寮に、帰りましょうか。レイヤ」
「もう、散歩はいいのか?」
「はい」
顔を上げたこいつはもういつものこいつに戻ってて、ふわりと俺の腕の中から出て行く。
「レイヤ、付き合ってくれて有難うございます」
「や、別に……」
「それと、
ーー〝ありがとう〟」
「ーーーー、」
「それは、何の〝ありがとう〟なんだ?」とは、聞けなかった。
こいつの心から嬉しそうに…泣きそうに、笑っている笑顔が、そうさせた。
だが、
俺は、この場面でこいつにその疑問を投げかけなかったのを
酷く、後悔することになるーーーー
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