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sideハル: 反撃するという〝覚悟〟
「ーー以上が、真実です」
話し終えて、呆然とするみんなを見つめる。
(まぁ、当たり前…だよね……)
昨日までここにいて当たり前のように名前を呼んでいた人が、実は全くの別人で、別の名前だったなんてーー
チラリとレイヤを見ると、彼もまた呆然としていて、服の上から心臓のあたりを押さえる。
「……要するに、お前が安心して過ごせる環境と婚約者との関係をうまく整えるために、弟はこの半年間学園に居た、と」
「はい、そうです。
それが整ったので、昨日交代になりました」
「……そう、か…………」
流石は先生と言うべきか、いち早く飲み込み梅谷先生が状況を整理してくれる。
そして、再び問いかけてくれた。
「……おい。そうだとしたら、これはバラしちゃいけねぇんじゃねぇのか? アキ…だって、誰にもバレることなくやり切ってんじゃねえか。
それを、どうしてわざわざお前がバラした。これまでのアキの努力が台無しだぞ?」
「ここから、なんです」
「は?」
僕が、此処にみんなを呼んだ理由。
それはーー
「アキを救う為に、手を貸して欲しいんです」
「は………?」
「おい、どういうことだよ」
「僕は、小鳥遊から…母さんや父さんから、アキを救いたい。助けたいんです」
アキが幸せに笑って過ごすためには、この取り巻く環境を変えなければいけない。
「母親や父親からアキを〝救う〟って……
お前、何言ってんのかわかってんのか………?」
「はい。僕は、
ーーーー〝小鳥遊〟に、反撃したい」
「っ!」
〝アキを幸せにする〟
本当は母さんの原因を突き止めるのが1番だったけれど、どれだけ調べても母さんが飲んでる薬を見ても結局わからなかった。
だから、それならば父さんと母さんに無理やりにでもアキのことを認めさせ、〝小鳥遊の息子はふたりである〟という事を公言してもらい、アキを〝龍ヶ崎レイヤの正式な婚約者〟へとしてほしい。
「僕は、〝弱い〟」
(そう、僕は弱い)
僕1人では、失敗するリスクの方が大きい。
だから、アキの作った人脈を利用させてもらって、少しでもそのリスクを減らしたい。
そして、アキの幸せを確実に掴み取りたい。
「その為にも、早くアキを遠くから連れ戻してーー」
「待て、アキはお前の屋敷にはいないのか?」
「っ、いません…昨日、遠い親戚の元へ引き取られていきました」
「なん、だと……っ、場所は知ってんのか?」
「勿論です」
知らないはずがない。
大切なアキの居場所を、僕が知らないわけがない。
両親の会話や書類から既に特定済みだ。
………でも。
「でも、まだ言えません」
(まだ、言えない)
ポソッ
「…んでだよ………」
「ぇ? ーーっ!」
グイッ!
「何で、言えねぇんだ!」
「っ、おい、龍ヶ崎やめろ!」
「龍ヶ崎くん!」
ここまでひと言も喋らなかったレイヤに胸ぐらを掴まれ、至近距離から睨まれる。
「俺が、すぐにあいつを迎えに行く!だから場所を教えろ!」
「ぃ、嫌だ!」
「なんでっ、」
「だって、レイヤにはまだ〝覚悟〟が無いからっ!」
「は……? 〝覚悟〟…だと…………?」
再び呆然とするレイヤの腕を思いっきり外す。
「そうだ…まだっ、レイヤには覚悟が無い。
だって、〝心が迷ってる〟」
「っ、」
「レイヤだけじゃない。みんな〝迷ってる〟」
僕は、これまでずっとアキを救う為準備してきた。
アキを幸せにしたいと、その一心でここまで耐えて、待ってきた。
「チャンスは、一回だけだと思う」
チャンスは、一回。
これを失敗したら、もうアキは戻っては来ないだろうし、僕もまた屋敷に連れ戻されるだろう。
「だから、もし僕に協力してくれるなら、生半可な気持ちで臨んで欲しくない」
ーー小鳥遊は、強い。
それは、1番近くで見てきた僕が1番知ってる
そんな迷いのある心で、勝てる相手じゃない。
真っ直ぐにレイヤやみんなを見つめながら、ゆっくりと言葉を口にする。
「きっと、これはそんなに直ぐには受け入れられないと思う。けど、早く受け入れてもらえると…嬉しい」
遠くにいるアキが、心配でたまらない。
早く助けにいきたい…抱きしめてあげたい。
その為にも、難しいだろうけど…早く、この状況を理解してもらいたい。
そして、もし良かったら……僕に協力してほしい。
小鳥遊は、龍ヶ崎と並ぶ大企業だ。
それに真っ向から喧嘩を挑もうとしている。
自分の家の事だって、あると思う。
けれど、
それでも、みんなにとってアキと一緒に過ごした半年間がキラキラ輝く思い出になっているのだとしたら
どうか、
「ーーーー僕に、力を貸して下さい」
祈るように、深く頭を下げた。
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