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sideレイヤ: 俺の覚悟
『初めまして、龍ヶ崎 レイヤさん』
『僕は貴方をまだ婚約者とは認めておりません』
『シャンデリアの蜘蛛の巣お願いしますね!会長サマ』
『貴方、馬鹿ですか?』
『メダルなんてっ、貰ったの、初めてで……』
『なんて顔してるんですか、会長らしくもない』
『こわっ、怖くないから…だから、はなれてっ』
『花火、初めて見ました…綺麗……』
『ぎゅって、してくださいっ』
『貴方が好きです。レイヤ』
(俺はーー)
「あ、小鳥遊様と龍ヶ崎様だ!」
「こんにちは!」
「クスクスッ、こんにちは。元気ですねっ」
「そうなんですよっ、実は小鳥遊様に報告しなきゃいけないことがあって!あのーー」
2人で風紀室へ書類を出した帰り道、ハルの親衛隊だろう奴らに囲まれた。
テンション高めにわいわいと話しかけられて、和かに会話を返すこいつは一見何もない普通のハルだ。
それなのに、まさかこいつが今までのハルじゃないなんて誰が想像するだろうか。
「またお話しさせてくださいねっ!」と去っていく奴らに手を振って、見えなくなったとこでクルリと俺の方を向かれる。
「ちょっと、もう少し愛想よくしたらどう?」
「っ、」
「僕ら一応恋人同士なんだから、そんな仏頂面だと怪しまれるでしょっ。そ・れ・に、もっとシャンとする!そんなんだと〝アキ〟戻って来た時悲しむよ!」
「全くもう…ほら帰るよー」と先に歩き始めるこいつを、ただ見つめた。
〝今までハルだと思ってた奴は、ハルじゃなかった〟
聞いた時にはそれは驚いたが、一晩眠ると一気に自分が馬鹿らしくなった。
(はっ、俺今まで何やってたんだ一体)
ハルじゃない奴をハルだと信じ込み、ただただ一心に思い続け……愛を囁いた。
それなのに、そいつはハルじゃないとか…馬鹿じゃねぇの?
今まで俺が言ったきた言葉たちは、この想いたちは、
ーー全て、意味が無いものだったのか……?
「はっ…まじ笑える」
あいつに「内面を見てほしい」と言われて、内面を見るようになった。
そしたら、世界が一気に色づいた。
そこには、たくさんの感情と気づかなかった想いがあった。
お前の内側だって…ちゃんと見れていたと思っていた……
なのに、
『お前ってさ、春 より秋 って名前の方が、しっくりくるよな』
(あの時の、涙の意味は………)
なぁ、〝お前〟の気持ちは一体どうだったんだ……?
パタンと生徒会室のドアを閉め、そのまま自分の席に座る。
隣には、あいつの机。
でも座ってるのはあいつじゃない。
(意味わかんねぇ……)
この前、生徒会室で本物のハルから全てを聞かされた。
それに対して、俺はまだ自分の答えが出せていない。
理由は簡単。
ーー怖いのだ、あいつの気持ちが。
(ハッ、俺いつからこんなに弱くなってんだよ……)
あいつの外見が、好きだった。
でも、どんどん知っていくうちに外見なんてどうでもいいくらい内面が好きになった。
強いのに弱くて、厳しいのに優しくて、脆くて儚くて……
それなのに、そんなあいつは俺に嘘を吐いていた。
本物のハルの為の、嘘を。
(なぁ、一体どこまでが嘘だったんだよ)
俺への想いは?
嬉しそうなあの声は?
恥ずかしそうなあの表情は?
『貴方が好きだ』と言ったあの言葉は、本心か?
それとも、あれもーー
(っ、くそ……)
「あいつに会って真実を聞くのが怖い」なんて、本当どうにかしてる。
俺、いつからこんなに弱くなったんだ。
恋は…愛は、ここまで人を変えるものだったのか……
「ーーねぇ、レイヤ」
「……んだよ」
あいつそっくりな声で、名前を呼ばれる。
「何を迷ってるか知らないけどさ、いい加減シャキッとしたらどうなの?」
「は?」
「そんなんだと、いつまで経ってもアキは帰ってこないよ」
「っ、てめ」
(そんな事、言われなくても分かってる)
でもまだ一歩が踏み出せなくて、そんな自分に酷くイラつく。
「はぁぁ…しょうがないなぁ……
本当は答えが出るまで待ちたいけど、でもそんな時間ないから。
ねぇ、レイヤ。1つヒントをあげるよ」
「は? ヒン、ト……」
「アキが僕としてレイヤに想いを伝えた日は、いつだったの?」
「……文化祭の、後夜祭の日だ」
「その時のアキは、どんな仮装をしてた?」
「白い魔女だったな」
「白い魔女の、意味は?」
(意味……?)
あぁそう言えば、あいつの選んだ仮装が珍しくてあの後調べたっけ。
確か、意味はーー
「嘘を吐かない、いい魔女という意味だ」
(…………嘘を、吐かない?)
ちょっと待て。
あの時のあいつは、何と言っていた?
『今日だけは、白い魔女のように…なりたいから』
確か、そう言っていた。
もしかしてそれは……今日だけは嘘を吐きたくないという意味だったのか?
(いや、だが………)
後夜祭のルールは、誰か1人にだけ嘘を吐いていいというもの。
もし、その1人に俺を選んでいたとしたら。
あいつは「俺には吐いていない」と言っていた。
でも、それすらも嘘だったとしたら……?
分からない…あいつの本当の気持ちが。
「ねぇ、レイヤ。ここからがヒントだよ」
「?」
「後夜祭が終わってから屋敷に帰って来た時ね、僕、アキに言われたんだ。
〝嘘吐いてごめんね〟って」
「ーーっ」
「寝言でなんとなく言われちゃったから、アキは覚えてないだろうけど」と笑うこいつを、呆然と見つめる。
(どういう、事だ……)
アキは、ハルに嘘を吐いたのか?
確かに後夜祭のルールは、誰に嘘を吐いても構わない事になっている。
なら、ハルに嘘を吐いた意味は……?
『貴方が、好きです』
あの日、そう言って涙を流して俺の腕に抱かれたあいつは
(ーーまさか)
ハルと交わしていた「ハルになりきる」というものに嘘を吐き、今日だけは素直になりたいと白い魔女の仮装を見に纏った
〝アキ〟だったのか………?
「ーーーーっ、」
(俺は、馬鹿だ)
もっとちゃんと見とくべきだった。
あの日のあいつを、もっと見とくべきだった。
それなのに俺は、ハルと気持ちがやっと通じ合った事に舞い上がってしまって
あいつの変化に、気づいてやれなかった。
「……ふふっ、気づいたみたいだね。
ほら、これ」
固く握った拳を解かれて、その中にチャリ…と物を置かれる。
「僕のじゃないから返すよ。もっかいちゃんと渡してあげて?」
薄い緑色をした翡翠のペンダント。
それをぎゅっと握りしめる。
(っ、あの馬鹿が!)
絶対ぇ外すなって、言ったのに。
「それから、これ」
「?」
カサリと、小さな紙を渡された。
「アキから、僕らにだよ」
折し皺が付いているそれ広げると、そこには走り書きのような文字が小さく並んでいた。
〝幸せになって〟
「ーーっ、ハッ、馬鹿じゃねぇの」
ギリッ!と、紙も一緒に握りしめる。
(俺の幸せは、お前がいねぇとはじまんねぇんだよ)
「ふふふ。
ねぇ、アキはずっと敬語を使ってたでしょ?」
「ん? …あぁ、そうだったな」
「言っとくけど僕は使わないからね。僕はレイヤとは婚約者や先輩後輩みたいな関係になりたいんじゃない、友好関係を築きたいんだ」
(は? 友好関係…だと……?)
こちらを見て、ニコッとハルが笑う。
「僕ら、良い〝友だち〟になれそうな気がするんだけどな」
〝友だち〟
「ハッ、友だちどころじゃねぇだろ。
〝戦友〟だな」
「あははっ、いいねそれ。かっこいい」
楽しげに笑うこいつに、ニヤリと笑いかける。
ーー迷いは、もう消えた。
(もう……あいつが何を想っていても、いい)
俺が、それを大きく上回る愛で包んでやる。
だから、もう逃げんじゃねぇぞ。
直ぐに俺が迎えに行ってやる、だからーー
「おい、決行の日はいつだ」
「もう間も無くに…したいな。
アキが心配すぎて、もう僕が保たない」
「そうか。そうだな、分かった」
ガタッと、立ち上がる。
「少し学園を離れる」
「ぇ?」
「聞かなきゃいけねぇ事がある」
足早に生徒会室を出て行く俺に、「いってらっしゃい」と声がかかった。
ドアを閉めて、ポケットからスマホを取り出す。
「おい、俺だ。 直ぐに迎えを寄越せ」
(俺は、)
俺には、まだ
聞くべき事が、あるーー
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