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side佐古: 俺の、覚悟は 1
「…………」
携帯番号が表示されている画面をぼうっと見るのは、何日目だろうか。
本物のハルに全てを明かされた日から、俺は全く部屋に帰っていない。
学校へは行ってる、ただ部屋に帰ってないだけだ。かと言って外の奴らとつるむわけもなく…ただぼぉっと外をうろつくだけ。
〝一緒に過ごしてきたハルは、ハルじゃなかった〟
(……んで、気づかなかったんだ)
思えば、最初から違和感は感じていた。
まるで何かに操られているかのように順調に事が進んでいくハルに、「どうなってんだ?」って疑問をぶつけて。
でも、上手くかわされてたってことか…あの時は。
それから何の疑問も感じなくなってしまって、そのまま一緒に過ごして……
(あぁ、やられたなぁ)
まんまとやられた。
あいつの苦しみに、何も気づいてやれなかった。
あんなに近くにいたのにーー
「っ、くそ………」
多分今の俺は、あいつがいなかったらないと思う。
丸雛や矢野元たちとも仲良くなれてねぇだろうし、学校にだって毎日行けてなかった。
櫻さん達にも迷惑かけっぱなしだったはずだ。
それなのに、まさかそんな俺が…クラスメイトと仲良くなれるなんて。
〝学校が楽しい〟と思える日が来るなんて、考えてなかった。
『僕は、佐古君と友だちになりたいんだ』
俺から一方的に切ったのにそれを飛び越えて俺の中に入ってきたあいつは、料理教室やらなんやらかんやらを好き勝手やりやがって。
挙げ句の果てに…何も言わず消えてしまった。
「ーーっ、」
(全部が全部、自分勝手なんだよ!くそがっ!!)
今、本物のハルからの問いかけに答えを出した奴らは、既に動き始めている。
(俺には、何もねぇ)
ーー〝家〟は……〝家族〟は、とっくの昔に捨てた。
だが、あいつと出会ってからもう一度向き合おうと思えた。
このまま過去から逃げてばかりでは駄目だと、あいつが教えてくれた。
(なぁ、俺はお前から沢山のものを貰ったな)
本当に…もう数え切れないくらい沢山のものを、この半年間で貰った。
びっくりするほど俺の生活を変えてくれた。
家を飛び出した当時の俺が見たら、きっと驚くだろうなぁ。
なぁ。そんなお前を、俺はどう助けられるだろうか?
(……なんて、答えはもう出てる)
あぁ本当、自分でもびっくりだな。
ーーーーまさかこんなに早く、危機迫って架ける事になるだろうとは。
グッと腹を括って、目の前の電話番号が載った画面を改めて見る。
その緑色の受話器のボタンを、震える指先でタップした。
Prrrrrrrrr………
外は寒いのに、聞こえてくる呼び出し音に一気に緊張して汗が出てくる。
(っ、のやろ……)
やがて、長いような短かったような呼び出し音は『プツッ』という音に変わった。
『……ヒデトか…?』
「ーーーーっ、あぁ…」
久し振りに聞く、あいつの声。
言わなきゃいけないことは山ほどあるのに、何から話せばいいのかわからなくなって、言葉が出てこない。
(落ち着け、俺)
前に、進むんだ。
あいつを助ける為にも、俺自身の為にも。
「っ、あのーー」
『あぁ、少し待つんだ。 …~~? ~~~』
(? なんだ?)
誰かと話している声。
何だがとても甲高い、楽しそうな声が聞こえる。
そのまま、受話器の向こうからガサガサッ!という音が聞こえた。
「? おい、忙しいのか…? なら架けなおsーー」
『おにぃさま……?』
「っ、」
(…………は?)
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