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その8: 作戦会議の話

--------------------------------------------------------- ◯リクエスト ハルの学園での作戦会議の様子 --------------------------------------------------------- 【side イロハ】 たくさんの紙で溢れ返ってるテーブルの上。 何度も何度も書き直したように線がいくつも描かれていて、その上に新しい文字が書かれている。 「今日はここまでじゃないか、ハル?」 「わ!時間が過ぎるの早いですねぇ!!」 「本当だ、もうこんな時間だ」 寮の消灯時間ギリギリの時間帯。 「ふわぁ…カズマ、タイラちゃん、そろそろ帰ろっか」 「みんな、今日もありがとっ」 「……佐古は、まだ部屋に戻って来てないのか?」 「うん、そうなんだよね…」 ハルが全てを話した後から、佐古くんは部屋を飛び出したっきり戻って来てないそうだ。 「学校には来てるんですよね? でも帰りはここじゃなくて、外に行ってるってこと……?」 「みたいだよタイラ。まぁ、僕にはどうしようできない事だなぁ……」 困ったように悲しく笑うハルに、胸がギュッとなる。 (せっかく、距離が縮められたのにな) たくさんたくさん心を開いてくれた佐古くん。 どうか、一緒に戦ってくれたらいいのに…… 制服を着崩したあの赤い髪と、話をしたい。 (でも乗り越えるスピードは人それぞれだし、こればっかりはしょうがない…よねぇ……) おれたちとしても早めにアキを迎えにいってあげたいし、今回はどんどん動かせてもらう。 今のところハルへ協力すると意思表示しているのは、おれたちとタイラちゃん、それから先生たちだ。 「月森先輩と会長は、実家に帰ってるんだよね?」 「うん、そうみたい。後はそれ次第かなぁ……」 「今回のは大きい事だしな。実家に許可取るのは当たる前か」 「2人も許可を取ったんですか?」 「んーん、取ってない!」 「えぇぇ!? 取られてないんですか!?」 「俺たちの家は何とかなるんだ。だから大丈夫」 「うんうんそう!大丈夫!!」 「は、はぁ…それならいいですが……」 そんなこんなで「じゃぁ帰るね」と玄関で靴を履くおれたちを、ハルが見送ってくれる。 コンコンッ 「えっ、ノック……?」 「このタイミングで? 誰だろう……」 「俺が出る」 カズマが瞬時におれたちを後ろに下げてくれ、注意深く鍵を開けた。 ガチャッ… 「よぉ、お前ら」 「梅谷先生?」 「えっ、梅ちゃん先生?」 「私もおりますよ」 「わー櫻ちゃんだ!!」 「どうせ遅くまで計画練ってんだろうと思って呼びに来てやったんだ。もう消灯時間だぞ」 「はぁーい。もー帰りますよ梅ちゃんせんせー」 「ったく…語尾を伸ばすな語尾を」 「佐古くんは、今日も……?」 「はい、帰ってきてないですね…」 「そうですか……小鳥遊くん、ひとりで大丈夫ですか?」 「大丈夫ですよ、有難うございます櫻さんっ」 「はい。 ………? 小鳥遊くん」 櫻さんの手が、ハルの首すじに触れた。 「……やはり、少し熱があるのではないですか?」 「えっ!?」 「本当か櫻? 小鳥遊、でこ触るぞ」 前髪を書き上げるようにして梅ちゃん先生の手がハルのおでこを触る。 「……ん、あちぃな」 「そんな…っ」 「あはは、んー先生方流石です」 舌を出しながらえへへと目の前の顔が笑った。 「はぁぁ…頑張りすぎだ小鳥遊。お前ちゃんと寝てんのか?」 「寝てますよっ……ちょっとだけ………」 「っ、たく……」 「ぇ? ーーわぁ、ちょっ、先生」 グイッと梅谷先生がハルを横抱きにする。 「櫻、小鳥遊の部屋のドア開けろ。ベッドまで運ぶぞ」 「はい」 ドタドタ…と部屋の奥へと消えて行った。 「………おれたちは、帰ろっか」 「そうだな」 「僕こっちなんで!それじゃぁお休みなさい!!」 「タイラちゃんおやすみー!」 「また明日な」 バタン、と自分達の部屋のドアを閉める。 「ハル、凄い頑張ってるね」 「そうだな。さっきの様子だと俺たちが帰った後も1人でやってたんだろうな」 「そうだね……」 (ほんっと、アキそっくりだ) アキも、1人でいっぱいいっぱい頑張ってた。 誰にもバレないようにしながら、懸命に1人で立ってた。 「一番いいパターンになると、いいな」 「うん」 一番いいパターン。 それは、会長も月森先輩も佐古くんも…残りのみんなが協力してくれる場合のこと。 「会長は大丈夫だよ、きっと」 だって、あんなにも深くアキを愛していたから。 だからきっと乗り越えて作戦会議に混じってくれるはず。 月森先輩も一緒だと、心強いんだけどなぁ。 協力してくれたら何人力なんだろう? 「佐古は…いるだけで勇気が湧いて来るよな」 「そうだね!何かあの赤い髪見るだけで落ち着けるよねぇ」 佐古には家がない。 だから今回の作戦では、正直何の力もない。 だれど、それとこれとは別。 その存在が近くに居てくれるだけで力が湧いてくることだってある。 「みんな、早く乗り越えれるといいなぁ……」 「待つしかないなこればっかりは…流石に何日もはもう待てないが」 「そうだね。なるべく早めに揃うといいな」 それと、もっともっとハルのことをちゃんと見とこうと思う。 ハルも我慢強い子だから全然体調不良の素振りなんか見せないし、近くにいるおれたちが見張っとかなきゃ。 (アキと会えた時ハルが元気ないときっと悲しむしねっ!) 「よし!カズマ早くお風呂はいって寝よー!!」 「クスッ、どうしたイロハ。やる気だな」 「当たり前でしょ!明日も頑張るぞー!おー!!」 バタバタバタッ!とお風呂場に走っていくおれを、カズマの優しい笑い声が見送ってくれた。 ーー決行の時は、近い。 それまで、めいいっぱい考えて悔いのないように行動してアキを連れ戻しに行かなきゃ。 『イロハっ!』 (待っててね、アキ) 絶対、君を1人になんてしないよ。 必ずみんなで、乗り込んで行くからねーー fin.

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