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sideアキ: 消えてしまいたいと、切に願う

『あれっ、レイヤとハルだ』 此処はどこ? どうして、こんなところにいるんだろう? 『ハルっ!』 『……? だぁれこの子』 『ぇーー』 振り返った顔は、ニタリと歪んでいた。 『ねーレイヤっ、この子のこと知ってる?』 『ん? あぁ……知らねぇなぁ』 同じくレイヤの顔も恐ろしく歪んでいる。 『ぁ…の……っ』 『だよねぇ、こんな〝わからずや〟の子なんて、知らないよね』 『そうだな、こんな〝嘘つき〟の奴の顔なんか見覚えねぇな。しかも、ハルと同じ顔じゃねぇか。 ーー〝気味が悪い〟』 『ね。本当に〝気味悪い〟や』 『ーーーーっ、』 『こんな子なんかに構ってないで、さっさと行こう』と、レイヤの腕にハルが絡みついた。 『っ、待って……』 そのまま、2人は幸せそうに笑いながらどんどん遠ざかって行く。 『ぁ、嘘……やだ、やっ、置いてかないで!』 追いかけようにも、足がズブズブ地面に埋まって動けない。 やがて、その影はフワリと目の前から姿を消してしまって…… 『あぁ…ぁ、いやあぁぁあぁぁぁっ!!』 「ーーーーっ!」 ガバッと起きて、窓の外を確認してホッと息を吐く。 (あぁもう……最悪) この前、雷が酷く鳴った夜があった。 屋根裏部屋である俺は、その影響をモロに食らってしまって…… (この夢、もう何回目だよ………) 自分の心の弱さに、本当に嫌気がさす。 朝ごはんや昼ごはん、それから夜ごはんといった食事は全く喉を通らなくなってしまっていた。 無理に食べようとしても、気持ち悪くて食べる事を止めてしまう。 いっそのこと眠ってしまおうとしても、見る夢はどれも最悪で。 何度も何度も眠りから覚めては、あるはずのないものを探してつい首元に手を彷徨わせる。 (あーぁ、ほんと………) 誰にももう必要とはされてないし、みんなは俺のことすらしないから、もういい加減乗り越えないといけないことなのに。 それなのに、 ーー俺は、何をしてるんだろう…… 「小鳥遊、今日も顔色最悪だぞ?」 登校して、今日もクラスメイトに声をかけられた。 「この頃ずっと体調悪そうだし、もういっそのこと思いっきり休んでみても良いと思うよっ?この学校そんなに厳しくないし、休んだら私たちがプリントとか持ってくし」 心配してくれるみんなは、今日も暖かい。 なのに、どうしてみても俺の心は冷え切ったままで。 「ありがとみんな、でもごめん……今日も保健室行っていい?」 「うんうん勿論!!付き添ったげようかっ?」 「んーん大丈夫、1人で行けるよっ。ありがとう」 力なく微笑むと、苦しそうに顔を歪めながら保健委員の女の子が腕を離してくれた。 ガチャッ 「はぁぁ………」 行き先は、保健室なんかじゃないもっと別のところ。 誰もこない、1人になるのに最適な場所。 その空間の隅っこにストンと腰を下ろして、そこから見える景色を眺める。 〝小鳥遊〟という檻からようやく出られたのに、出てきた外の世界は思ったよりも広くて……未だに飛ぶことができず蹲っている。 一緒に住んでるあの人たちは置いといて、それ以外は本当に凄くいい人たちなんだけどな…… 俺がこの現実を受け入れれないのは、単にまだみんなへの未練が残っているからだ。 ポツリ 「俺、ほんと何やってんだろ」 この前〝この思い出さえあれば、生きていける〟と思った。 ーーでも、そんなの実際にはただの綺麗事だった。 思い出だけで、人はどうやって生きていくんだ? 形なんて無いのに……写真もビデオも、何も無いのに? 誰1人としてもう会うことが出来ないのに、そんな状況で一体どう生きろというんだ? ……少なくとも俺は、そんなに強い人間じゃない。 自分に少しでも何かあってメンタルがやられたら、すぐにあの日々を思い出してしまう。 貰ったネックレスを、無いと知りながらも無意識に探し首に手を当ててしまう。 「も…無理、だよ………」 こんな未来になるのなら、いっそのこと小鳥遊から出される時に記憶を全部消して欲しかった。 (あぁでも、それもなかなか辛いなぁ……) それならば、一体どうしていたら…俺はこんなにも苦しむことの無い未来にたどり着けたんだろう? なぁんて……今更遅いけどな。 コロンとそのままコンクリートの冷たい床に寝転がり、目の前いっぱいに広がる空を見上げる。 (あーぁ、本当に空が飛べたらなぁ) いっそ本当の鳥にでもなれたなら、どこまででも羽ばたいていけたのだろうか? そうなったら、真っ先にみんなのいる学園へ飛んでいきたいな。 みんなは元気だろうか? 変わらずに笑っているだろうか? (そうして卒業まで見守って、その先もずっとずっと…見守って……) いつか、レイヤとハルが挙げる結婚式を空から眺めてみたい。 お花なんか散らせれたら、それだけで…もう最高なんだけどな。 『こんな〝わからずや〟の子なんて、知らないよね』 『そうだな、こんな〝嘘つき〟の奴の顔なんか見覚えねぇな』 「ーーっ、」 今朝の夢が蘇ってきて、ぎゅぅぅっと心臓辺りの服を握りしめる。 〝儚い〟だとか、〝消えてしまいそう〟だとか…… 前の学園じゃ、随分そんな言葉をかけられてたっけ。 それなら、もういっそのこと……… 「ーー本当に、消えてしまえれたならいいのに」 目を閉じたら、また悪夢。 けれど、寝不足の為か横になれば必ず襲いかかってくる眠気には…どうしても勝つことが出来なくて。 (あぁ……やだなぁ………) じわりと視界が歪んで、目の端から涙がツゥ…っと落ちる感覚を感じながら ーーーー瞼を閉じた。

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