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sideレイヤ: やっと届いた、その手は
(寝ている…だけ……か)
倒れてんじゃねぇかと思って慌てて駆け寄ったが、違ったみたいで安心する。
見覚えのない学ランに身を包んだその姿は、俺が半年間を共に過ごしたあいつで…間違いなくて。
ポツリ
「ーーっ、〝アキ〟……」
震える手で頬に触れると、こんな寒い中で寝ているからか氷のように冷たい。
ガバリとその身をコンクリートから離し、抱き寄せた。
(あぁ…また痩せてやがる)
やっと、元の体つきに戻ってきてたのになぁ……
暖めるようぎゅぅっと強く抱きしめると、苦しそうに身じろぎはじめた。
「アキ、アキ」
「ぅ…んん……」
ゆっくりと瞼が開き、その眠そうな瞳に俺が映る。
「レ…ヤ……?」
「っ、あぁ、アキ……っ」
「なに…これ………ゆめ……?」
「ハハッ、何言ってんだ…夢じゃねぇよ」
夢なんかじゃ、ない。
今、こうして俺が抱きしめてるのは紛れもなく俺の愛した体で。
俺の顔を映しているこの目は、紛れもなく俺が好きだと言ったあの真っ直ぐな瞳だ。
(っ、やべぇ…泣きそうだ………)
やっと…やっと、手が届いた。
必死に耐えて準備をして、ようやく居場所を教えてもらえて、本当にやっと…ここまで来れた。
「……っ、」
ジワリと視界が滲んできて、グッと堪える。
そのままゆっくり頬を撫でていると、だんだん意識がハッキリしてきたのか徐々に目がパチリとしてきてーー
「ぇ…………?」
ビクッ!と驚いたように体が震え、頬にあった手を強く握られる。
「ぅそ…、ほん……もの………?」
「ククッ、やっとかよ。あぁ、本物だ……〝アキ〟」
「ーーーーっ!?」
「ぁ、おいっ」
突然、バタバタと凄い勢いで暴れ出した。
「ゃ、ぅそっ、なんで………っ!? 離して!」
「やめろっ、アキ!暴れんな!」
「ゃだっ、ゃ、〝俺〟は…〝僕〟は……っ、ぁあ…あ、あぁあ!!」
(っ、やべぇ)
ギリッと痛いくらいに爪を腕に食い込まされる。
体は驚くほど震えていて、いくら落ち付けようとしても効果がない。
目の前の瞳には、もう…俺なんか映っていなくて……
「ぁ…っ、め、なさ…ごめ、なさい…ごめん…なさ……」
やがて、ポロリと、虚ろな目から涙が溢れてきた。
「ーーーーっ、」
こいつは、こんなところに1人で連れて来られてこんなになるまで頑張ったのに…何をまだ苦しんでいるんだろう。
(なぁ。俺は、どうやったらお前を救えるんだ?)
やっと……やっと手が届いたのに。
「ーーアキ」
どうか…どうかその目に、ちゃんと俺を映してほしい。
暴れるその頬に、優しく手を添える。
そして、まるでいつかのあの日…雷の時パニックになったあいつに、キスを贈った日のようにーー
ゆっくりと……謝罪の言葉を紡ぐ唇を、塞いだ。
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