304 / 533

sideアキ: 手が、届くということ

目が覚めたら、本物のレイヤがそこにいた。 (ぇ…な、に……これ………っ) 頬を撫でられてる手を握ってもしっかりとした感触があって、懐かしい温度に体ごと全部包まれていて。 (夢……じゃ、ない………) これは…この、俺のことを〝アキ〟と呼ぶこの声は ーーーー紛れもなく、現実、だ。 「っ!?」 「おいっ」 (嘘…嘘だ……!) 何で、どうしてレイヤが此処にいる? ハルのことがバレたのか? でも、それでも俺のことはみんなには知られていないし、名前すら分からないはず。 それなのに、どうして今こうして名前を呼ばれて、抱きしめられているんだ……? (っ、まさかーー) 何処かに、抜け目があったのだろうか。 ハルと入れ替わった時ボロが出てしまうような…そんな見落としてる部分が、あったのだろうか……? (俺のこと、怒りにきたの…?) 夢の中みたいに、〝嘘つき〟って…〝気味が悪い〟って…… 「ぁ…っ、め、なさ…ごめ、なさい…ごめん…なさ……」 (ゃ、だ…こわ、こわぃ……) ただでさえ夢の中のことでいっぱいいっぱいなのに、現実でも言われたら、俺どうなるの? こんな夢が現実になるなんて…そんな、そんなの…… 「ごめ…な、さ……」 体をバタつかせても離してくれなくて、怖くて怖くて息がだんだんと苦しくなってくる。 ガクガク震える体は…もう自分でも止めることができなくて。 (も、やだ……っ) 視界が狭まってくる。 目の前も、じんわりと滲んできてーー 「んぅっ」 ふわりと、何か暖かなものに突然唇を塞がれた。 「ん…ん、んぅ……っ、はぁ…なに ーーんむっ」 離れたかと思えば、今度は口の中に温かい何かが入り込んできて、口内を荒々しく動き回られる。 (いき、が……っ) 『鼻で息しろ。そう、上手だ』 いつかレイヤにかけられた言葉が蘇ってきて、必死に息をする。 「ん…んぅっ、ぁ、はぁ…んっ、んん……」 最後に下唇を強めに吸われて、ゆっくりと離された。 「ぁ…はぁ…は…はぁ……っ」 「ーー俺の声は、聞こえるか?」 肩に顔を押し付けられ耳に顔を寄せられて、優しく問いかけられる。 まだ震えは止まらないけど、それでもさっきよりはちゃんと聞こえるからコクリと小さく頷いた。 「大丈夫だ」と言うように、背中を心地よいリズムで叩かれる。 「お前の事は、ハルが教えてくれたんだ」 「ーーぇ?」 「入れ替わった初日に、お前と関わりのある奴全員を生徒会室に呼んで、全てを話してくれた」 (ぅ、そだ……) どうして、そんな事を。 「お前を助ける為だ、アキ」 「ぉ…れ、を……?」 「そう。皆んなすぐお前とハルの違いに気づいたぞ。 お前が演じてた〝ハル〟を通して、俺たちは〝お前〟を見ていたんだぜ、ちゃんと」 「ーーーーっ!」 嘘。 (みんな、知ってたの…?) 俺の事を知らなくても、本物のハルに違和感を感じたの? そんなこと、あるわけ、 「なぁ、〝アキ〟?」 ビクッ 「っ、な、なに…」 「本当のお前は、自分のことを〝俺〟って言うのか?」 「ぇ……?」 「お前は、何が好きなんだ? 何が苦手で何が嫌い?」 そっと体を離され、顔を包むように両頬へ手を添えられる。 「俺は、お前の事…〝アキ〟のことを、全部知りたい」 ポタリと、顔に雫が降ってきて。 驚いて上を向くと、そこには笑いながら涙を流している、綺麗な顔があった。 「ぇ、レイ…ヤ?」 「ーーあぁ。やっと、手が届いた……」 「っ、」 涙を拭えばいいのに、レイヤは俺の頬に両手を当てたまま全然離す気配がない。 代わりに拭ってあげようと恐る恐るその顔に手を当てると、嬉しそうに擦り寄ってくれて。 「~~~~っ、レイ、ヤぁ……」 俺も、ホロリと温かいものが頬を伝った。 「ぅ、うぇぇ…っ」 今、目の前の瞳に映っている俺は、紛れもなく〝アキ〟として捉えられていて。 『やっと手が届いた』 (っ、俺も………) 諦めていたものなのに、なのに。 「アキ」 「……っ、レイヤ」 (手が…触れてる……っ) 俺も あぁ、やっと手が届いたーーーー

ともだちにシェアしよう!