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sideレイヤ: さぁ、行こう。
抱きしめてる体の震えが止まるまで、背中をポンポン叩く。
ようやく落ち着いてから、アキが居なくなってからの話と今現在の話を全てした。
「そん…な……じゃぁ、今ハルたちは屋敷に…?」
「あぁ、そうだ」
「早く行かなきゃ………っ、くしゅっ」
「はぁぁぁ、ほら」
上着を脱いで掛けてやる。
「この寒空の下何処に屋上で寝る奴がいんだよ…」
「ご、ごめんなさぃ……」
しゅん…となってるこいつを見るのは、本当に久しぶりで。
(あぁ、これだ)
俺が半年間ずっと一緒に過ごして、たくさんぶつかって笑い合って、好きだと告げたのはこの人間だと
俺の全細胞が告げている。
「なぁ、アキ」
「っ、な、なに……?」
「少しだけ、自己紹介しようぜ?」
〝アキ〟としてのお前に会うのは今日が初めてだから。
だから、ほんの少しだけ。
「お前はもう俺のことなんか知り尽くしてんだろ。だからほら、お前の番だぞ」
「ぇ、えっ!」
「アーキ。自己紹介、してくんねぇの?」
テンパる顔に苦笑して、その頭を撫でる。
「ぁ……っ、えっと…その」
「ん?」
「お、俺…ちゃんと自己紹介とかしたことないから…わかんない……」
「っ、クク、そうか。
ーーじゃあ、俺が一番最初にそれを聞けるんだな」
初めてならば、仕方ない。
ヒントをくれてやるか。
「お前の名前は?」
「俺の名前は……小鳥遊 アキ…です……っ」
ぎこちない、こいつの初めての自己紹介。
「年は?」
「じゅ、16」
「好きな料理は?」
「シチュー」
「嫌いな料理は?」
「嫌いな…料理……わ、わかんない…」
「そうか、じゃあこれからいろんなもの食って見つけていかなきゃな。 苦手なものは?」
「苦手、は……雷…です」
「あぁ、知っている」
ポケットから取り出したものを、目の前の細い首にチャリっと付けてやった。
「っ! これ……」
「あれだけ〝外すな〟つったのにどっかの誰かが外しやがるから、この俺がわざわざもう一回付けてやったんだ。感謝しろよ。ったく…」
「で、でもっ、これってハルのなんじゃ……」
「あの時はお前の本当の名前を知らなかったからな。
俺は、お前にあげたつもりだったんだ」
「ーーっ、」
「ぅ、そ…」と呟きながら恐る恐る翡翠の玉を握る両手を、俺の両手で包み込む。
「いいか。もう絶対ぇ外すんじゃねぇぞ」
「~~~~っ、ぅん」
「誰かにこんなプレゼント貰ったのも、初めてか?」
「んっ。俺だけに…何かを買ってきてもらえたのは、はじめて……」
「そうか」
折角治ったのにまたグスッと涙を流し始める体を、抱きしめてやる。
(これから、いろんなことをしよう)
水族館や動物園や遊園地や…夏祭りにも行って
海や山へ遊びに行って
美味いものたくさん食べて、プレゼントなんかもいっぱい買って
そうして、溢れるほどの思い出を…つくってやりたい。
ーーその為にも、
ガチャッ
「レイヤ様、そろそろお時間です」
「あぁ、分かった。
アキ、行けるか?」
「っ、はい。行きます……!」
グイッと大きく涙を拭った手を取って、立ち上がらせる。
(俺は、こいつじゃなきゃ駄目だ)
抱きしめた時、その目に見つめられた時、アキがつくる表情ひとつひとつに、俺の体や心が喜んでいる。
一生、もう離したくない。
離れるなんて…もう無理だ。
ーーだから、俺はこいつの〝未来〟を、もらいに行く。
ギュッと繋いでいる手に力を入れると、同じくよく知った体温が握り返してくれて。
(あぁ、大丈夫だ。絶対)
こいつが隣にいるだけで、力が湧いてくる。
そうして強く頷きながら
共に歩いて、屋上を後にしたーー
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