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sideハル: 社長である〝父さん〟1

ずっと…ずっと、これを聞きたかった。 母さんがいない時を見計らって何度も聞きに行こうとしたけど、でも、どうしても聞けないでいた。 父さんが、父さんじゃなくなってしまいそうで…… これ以上家族が壊れてしまうことを、アキは望んでいない。 だから…それならばとアキが学校へ行っている間、屋敷中の父さんの部屋を調べ尽くした。 でも、結局何にも出てはこなかった。 (月森さんも一緒になって隠してるんだろうな) 月森には、正直勝てないと思う。 でも、僕が必死になって調べていることをきっと2人は知っている筈だ。 「答えてください」 ここで聞かずして、いつ聞くんだ。 「……うん、そうだね。私に拒否権は?」 「ありません」 「そうか。もし拒否したら、どうなるんだ?」 「丸雛は、小鳥遊との取引を辞めます」 イロハの固い声が響いた。 「丸雛と取引関係にある企業へも、根回しする予定です」 「矢野元も、そのつもりです」 「成る程。それは痛いなぁ」 苦笑する父さんに、月森先輩も口を開く。 「私も、自分の主人を取り戻すため全力で動かせて頂きます」 「ん? 君の主人はハルじゃないのか?」 「勿論、私の主人はハル様です。ですが、アキ様でもある」 「2人……?」 「はい。 私は、現当主に主人を2人持つことを許されました」 これは予想外だったのか、目の前の顔が驚いた表情へと変わった。 「月森、本当なのか?」 「はい、誠に御座います。 先日現当主から全月森へ通達がありました」 「そうだったのか。いやぁ、これはやられた…」 「報告してくれれば良かったものを」と、ニヤリとした顔で後ろに控える月森さんを振り返る。 「クスクスッ、社長に何も聞かれませんでしたので」 「月森の情報なんて握れる訳がない。うーん、我が家の月森は厳しいなぁ」 「皆同じですよ」 口ではあぁ言っているものの、信頼し合っているかのように和やかな口調。 僕は、そんな2人が子どもの頃から大好きだった。 優しくて、穏やかで、いつも笑っていて…… それなのに、どうして今こうして敵対しているかのように戦うことになっているのか… 「……ねぇ、父さん」 「? 何だいハル」 「一体どうして、〝そんな所〟に立っているの?」 父さんは、母さんの為に今僕らとは逆の場所へ立っている。 「父さんは、何をそんなに頑張っているの?」 一体、何をそんなに 「ーー守って、いるの?」 多分、父さんは〝何か〟を守る為、こうして月森さんと共ににあちら側へ立っている。 それも、もうずっと…… 「アキを正式に息子だと告知しないのも、〝何かから守る為〟だよね?」 月森さんと2人で、ずっと〝何か〟と戦ってきたんだと…思う。 「父さん。僕は、もう子どもじゃないよ」 もう、守られなくても、いい。 父さんが背負っているものを、僕も一緒に背負いたい。 父さんは、母さんを愛している。 本当に呆れるくらい仲が良くて、幸せそうで… 僕のことも、とても大切に想ってくれている。 (でも、多分父さんはーー) 「アキのことも、僕と同じくらい大切……なんだよね?」 父さんは、きっと僕の事を愛してくれてるように…アキのことも愛してくれている筈だ。 母さんと一緒にいない時のふとした表情や視線で……何となく、分かってた。 (ねぇ、父さん) 多分、多分…… 「父さんは、〝母さんからアキを守る為〟に正式に告知していない。違う?」 (母さんの病気が、原因のはずだ) 「僕も、父さんや母さんが抱えているものを支えたい。今まで守られてばかりだったけど、僕も頑張りたい。 だから、父さんたちが抱えてる問題を、教えてほしいんです」 真っ直ぐに目の前の顔を見ると、その目が考えるようゆっくりと閉じられる。 そして開かれた時、それは冷たい眼差しに変わっていた。 「ーーーー甘いな」

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