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「ハル。このような場において、感情論で話をするのは良くないな」 「っ、」 正論すぎて、言葉が詰まる。 「丸雛と矢野元の事も、大体予想はできていた。 大きな会社を敵に回すことになるし被害は相当だろうが、だからと言ってとりわけ慌てるような事ではない」 「彼ら無しとてやり方は幾らでもある」と父さんが足を組み直す。 「月森は少々痛手だが、あいにくこちらにも月森はいる。ミナトくん、私の月森は確か君の叔父にあたるそうだね。君とは仲が良いみたいで忍びないが……仕方がない。 いざとなったら月森同士、腕の見せ合いをしてもらおうか」 「ーーっ、」 思わず隣を見ると、先輩は表情を変えず真っ直ぐに月森さんを見ていて。 「…仰せのままに、社長」 柔らかい表情はそのまま、月森さんは頭を軽く下げた。 「後は……そうだな、他にも今回手伝ってくれた子たちがいるね、3人ほど」 「!?」 「梅谷と櫻の息子は、2人ともあの学園の先生だったな。それなのに今回加勢したのか…生徒想いの良い先生方だ。会社も、古くからあるとてもいい企業だと聞いている」 梅谷先生と櫻さんも、実は立派な会社の息子であの学園の卒業生。 でも、それでも今回はあくまで先生という立場を優先して今も外で待機してもらっている。 「それと……星野、かな?」 「っ、どうして…!」 驚いたイロハの声に、ニコリと父さんが笑った。 「あそこはとてもいい会社だ。人情味が溢れていて義理堅い…そんな会社なかなか無いからね。きっとこれから急成長していくだろう。私も勿論ビジネスで付き合いたいと思っていた、の、だがーー」 ニヤリ、と嫌に微笑まれる。 「ーーーー潰してしまうのも、いた仕方ないか」 「っ!!」 (駄目だ) これじゃ、何のためにタイラを学園へ残してきたか分からない。 梅谷先生や櫻さんだって…… (っ、くそ……) 「責任をとってやる」と先生たちは言ってくれた。 でも、僕のわがままに付き合ってみんなをここまで連れて来てくれて、その上で責任まで取らせるなんて…そんなの絶対に嫌だ。 (外にいる先生たちはまだしも、学園に残ってるタイラの事まで知られてるなんて…) ある程度の予防線を張って今回手伝って貰っていたのに、これは予想外。 一体、どうすればーー ポソッ 「あぁ、足りないな」 「えっ?」 ポツリと父さんが何かを呟いたように見えたが、返ってくるのはいつもの微笑のみ。 そのまま、椅子から立ち上がって窓の方へと近づいて行った。 「秘密は、残念ながら教えられないよ」 「っ、」 「君たちの言い分だけだと、どうも弱い」 太陽が昇る外を眩しそうに見つめながら、ゆっくり話し出す。 「だがね、ハル。幼い頃からどんなに体調が悪くても取り乱す事のないお前が、こうして私に感情をぶつけてくれたのは…今回が初めてなんじゃないかな。 ーーそれが、どうやら私は…凄く嬉しいみたいだ」 「ぇ……?」 (今、なんてーー) 「親とは、このような気持ちになるのだろうか? なぁ月森」 「クスッ、そうかもしれませんね」 月森さんが父さんに近づいて、眩しくないよう片側だけそっとカーテンを閉めた。 「そうだな。確かに、私は〝何か〟を守っているさ。 もう途方も無いくらいに、ずっと」 「っ、」 「君たちのヨミは正しいだろう。 だが、その〝何か〟は、言うことはできないな。 ーー教えるつもりもない」 母さんの病気も、アキのことも、全部…… 「このまま問題が解決できないのならば、 ーーーー私が、墓場まで背負っていくさ」

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