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〝墓場まで背負っていくさ〟
この一言で、どれだけ父さんが覚悟してるのかを感じた。
決して逞しくはない体つき、寧ろ平均より少し細身だと思う。そんな薄い肩には、一体どれだけの重圧がかかっているのだろうか?
父さんは、僕らを守る為……ずっと1人で戦っていたんだろうか。
大切な母さんの病を支えながら、ずっと……
(…いや、1人ではないか)
静かに寄り添う月森さんを見る。
父さんと、月森さんと……
(2人が、小鳥遊を守ってきたんだ)
これまで何も知らずのうのうと生きてきた自分が憎い。
無意識にぎゅぅっと拳を固く結んだ。
「ーーあぁ、来たね」
「っ?」
外を指差す父さんにならい窓へ近寄ると、一台の車が急停車していた。
忙しなくドアが開け放たれ降りてきたのは、レイヤと……
「クスッ。手なんか繋いで、仲のいいことだ」
不安げに屋敷を見上げる、会いたくて会いたくて仕方のなかった僕の片割れ。
レイヤがその不安を和らげるように、背中を撫でてあげていた。
ポツリ
「………あぁ、少し痩せてしまっているな」
「ぇ?」
「あの土地は小鳥遊の目も届かないし小鳥遊を知る人物すらいなかった筈だ。通う学校自体もとてもいい雰囲気と聞いていたんだが」
「そうですね。調べたところ確かにその筈なのですが…」
「預けた奴らがまずかったか。〝生活面では不自由なく〟と、あれだけ言ったのに」
「後で調べましょう」
「頼む」
「っ、」
「アキたちがもうすぐこの部屋を訪ねてくるな」と窓から離れる背を、呆然と見つめる。
(父さんは、やっぱりアキのことーー)
窓に近づいた僕にしか聞くことができなかったであろう、小さな小さなその会話。
だが、それは確かに……親としての父の顔だった。
バタン!
「悪りぃ、遅れた」
「龍ヶ崎、〝アキ様〟」
「〝アキ〟……!」
「〝アキ〟、久しぶりだな」
「ーーっ、み、んな………」
みんながそれぞれに名前を呼んでくれて、それに呆然としながら泣きそうになっているアキへ、優しく笑った。
(アキ、会いたかったよ)
本当だ。少しどころじゃなく大分痩せてしまっているように見える。
早めに準備して迎えに行ってくれて、本当に良かった。
「お久しぶりです、小鳥遊社長」
「久しぶりだね、レイヤくん。
会うのは婚約者の件での顔合わせ以来か」
アキと手を繋いだまま、ゆっくりレイヤが父さんに近づいていく。
「あの時は、まさかこのような事になるとは思ってもみませんでしたよ」
「あぁ、私もだ。人生とは面白いものだな」
「ーー本当に?」
ピタリと、一定の間をとってその足が止まった。
「〝攻めの龍ヶ崎と、守りの小鳥遊〟。
貴方は、こんな未来が来るのではないかと予想していたから俺を婚約者に選んだのでは?」
「あぁ、龍ヶ崎社長から聞いたのだな」
「全て、聞きました」
「クスッ、そうか」
それすら予想の想定内なのか、父さんは笑みを浮かべていた。
「ビジネス以外の場での会話は、あれが一度きりだったのにな。まぁ、彼はとても面白い人物だったから覚えているとは思っていたが」
「……父も、貴方は面白い人だと言っていました」
「本当か。ははっ、やはり我々は良く似ている」
「小鳥遊社長。今回貴方はその話を覚えていたからこそ、龍ヶ崎の俺を小鳥遊の婚約者として迎えた、違いますか?」
「仮にもし、そうだとしたら?」
ニヤリと、最高にカッコよく対峙している顔が微笑んだ。
「ーー俺は、貴方に感謝を申し上げたい」
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