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sideレイヤ: 想いをぶつける 1
久しぶりに見た小鳥遊社長…ハルとアキの、父親。
その余裕そうな顔が、訝しげに歪められた。
「感謝……だと………?」
「えぇ、そうです」
チラリと隣にいるアキの顔を見ると同じく〝?〟を浮かべていて、思わず苦笑する。
「俺は、貴方にいくつか感謝しなければいけないことがある。
まず1つ目に、俺の父と話したあの話を忘れずに覚えていてくださっていたこと。
2つ目に、龍ヶ崎を婚約者として選んでくれたこと。
そして、3つ目にーー」
「わっ」
グイッとアキと繋いでいる手を引き寄せた。
「こいつと……
アキと、会わせてくれたことです」
「ーーっ、」
ハッと、アキと小鳥遊社長やその周りの人たちの息を呑む音が聞こえた。
「俺は、アキと出会う前は薄っぺらい中身が空っぽの人間でした。それはもう驚く程に」
その人の肩書きしか見ない、家柄しか見ない、外見しか見ない…そんな上部ばかりを見るロボットのような性格だった。
それでいいと、なんの疑問も持たず生きてきた。
「だが、こいつがそれを変えてくれた」
真っ向から俺の世界を否定された。
〝会長サマ〟と呼ばれ、俺よりひ弱で小さい体つきのくせにびっくりするほど噛み付いてきやがって。
「こいつが教えてくれた世界は…それまでの俺の世界にはまるで無かったような、カラフルなものでした」
初めて、〝心〟というものに触れた。
それは驚くほどいろんな色をしていて、人それぞれ全く違う感情や考え方をしていて、とてもとても面白いものだった。
「見る世界が、ガラリと変わりました。これまで蔑ろにしていた生徒会の奴らや教室の連中、親衛隊……
俺と関わりのある奴全ての顔を、初めてちゃんと見たような気がした」
とてもびっくりした。いつも見ていた顔だったのに、嫌という程見ていたはずだったのに。
改めて見た皆んなの顔は、とても輝いているかのように見えた。
「全部、こいつが教えてくれたんです」
俺に〝感情〟というものを、くれた。
楽しさも、嬉しさも、悔しさも、切なさも、全て……
「そんなこいつを、俺は〝愛しい〟と思いました」
いつもいつも頑張りすぎるくらいに頑張るこいつを、〝支えたい〟と思った。
「手を伸ばせ」といくら言っても遠慮して伸ばしてくれないこいつのことを、〝いじらしい〟と思った。
時々消えてしまいそうなくらい儚く笑うこいつを、〝離したくない〟と思った。
何でも抱え込んでしまうこいつを、ただ〝守りたい〟と思った。
「〝愛は人を変える〟と、貴方は父に仰ったそうですね。
〝空っぽのような心は、愛によって驚くほど彩られていく…人生とは、そのように出来ているのかもしれない〟とも。
前の俺は貴方の言い分を全く理解出来なかっただろうが、今の俺は違います」
こいつに……アキに、もう嫌という程教わった。
「貴方がアキを〝ハル〟として学園へ通わせてくれたこと、本当に感謝します。
こいつじゃなければ、きっと俺はここまで変わることができなかった」
アキじゃないとダメだと、俺の全てが叫んでいる。
今回、離れ離れになってからより強く……それを実感した。
「俺をアキに会わせてくれて
ーー本当に、有難うございます」
真っ直ぐに父親の目を見ながら、そう言葉を口にして
俺は、綺麗に頭を下げた。
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