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「……これは、驚いたな。
まさか君も感情論で話を始めるとは」
頭を上げると、目を見開いて俺を凝視する社長がいた。
「あの君が、まさかこんなにも変わっていたとはな」
「変わった俺を見せるのが一番早いかと思いまして」
「ほぉ。初めに出会った顔合わせの時が懐かしい。ニコリともせずただ〝小鳥遊〟の苗字しか見てなかったのに」
「あの俺はもういませんよ。忘れてください」
ニヤリと笑うと、向こうもニヤリと笑い始めた。
「ははっ、だがなレイヤくん。こういった場において感情で話をするのはよくないな」
「そうですね。
では、ここからはあくまでも俺の考察で話をさせて貰います」
繋いでいるアキの手を握りなおすと、直ぐにまたキュゥッと力を入れなおしてくれて、安心する。
「父から聞きました。
〝貴方は何か秘密を守っている〟と」
『小鳥遊にはね、何か秘密がある。
あの子猫が今も正式に告知されてないところを見ると、もうずっとあの社長はその秘密を守っているのだろう。それも、まだ解決していない筈だ』
「それにハルから聞いた貴方の話を足して、自分なりに考えてみた」
ハルから聞いたこいつらの母親…夫人がアキのことを嫌っているという話と、薬の話。
それらのピースを当てはめて、違うと外して、また当てはめてを何度も何度も繰り返して……
ーー自分なりに答えを、出した。
「貴方は〝夫人からアキ〟を、そして〝アキから夫人〟を守る為に、アキをずっと隠し今回屋敷から出したんですよね?」
「ぇ………?」
隣にある顔が、驚きの表情で固まった。
抱き締めたいのを必死に堪え、今は手を強く握りながら社長と対峙する。
「アキを〝ハル〟として学園へ行かせた理由、表向きは〝体が弱いハルの為に安心して過ごせる環境と婚約者の見極め〟だったそうですね。
だが、貴方の本音は違う。
貴方は〝アキを夫人から離し自由にさせる為〟に行かせた筈だ。恐らく、ハルとしか関わることの出来なかったこいつが、少しでもこの屋敷から離れ、幸せになれるようにと」
そしてアキが学園に行くことは、同時に〝夫人からアキを離す事〟にも繋がる。
「今回だってそうだ。〝役目は終わった〟とアキを地方に飛ばし本物のハルと入れ替えた。
だが、どうしてあの土地を選んだ?」
小鳥遊は龍ヶ崎と並ぶほど大きい一族だ。
わざわざあの土地でなくとも、縁の遠い繋がりの者は沢山いる筈。
「俺なりに調べました。
あの土地は、あの県の中でも住みやすい町の上位に選ばれているそうですね。そしてアキが通っていた学校もその地方じゃ評判の良いところだった。交通の弁は悪く田舎のため、小鳥遊の目もろくに届かない。預けた方々もいたって普通の人たちだったのでは?」
それなのにこんなにも痩せてしまっていたのは、きっと社長にとっては〝予想外〟だった筈だ。
「貴方は、小鳥遊からアキを離す事でアキを幸せにしようと…守ろうと、した。
違いますか?」
ーーここでは、アキは幸せになることはできない。
だってアキを息子と告知していないし、夫人がいる以上普通に生活することすら難しいだろうから。
だから、ならばせめて遠くの良い土地で幸せになってほしいと…その一心で手放した筈だ。
「そん、な………っ、父、さん……」
呆然としたアキの声が聞こえる。
社長は無言で、ただ話を聞いていた。
「こうなってしまったそもそもの原因は、〝夫人がアキを嫌っている〟ところにある。
だが、親が自分の子を嫌うことなんて早々無いだろう。それも母親だ。腹を痛めて産んだ子を嫌うなんて、必ず何か〝理由〟がある」
その〝理由〟こそがーー
「夫人が飲んでいる薬……〝夫人の病〟なんだろう」
では、その〝病気〟とは一体何なのか。
「ハルは、夫人が飲んでいる薬を〝見たことがない〟と言っていた。幼い頃から体が弱く、いつもベットにいるような子がだ」
恐らく、ハルはこれまで色んな種類の薬を…もう嫌という程飲んできた筈だ。
それなのに〝見たことがない〟と言った。
「これまで目にしたあの薬に似てる気がする」ではなく、「見たことがない」と。
ーーーーそれが、答えだ。
「夫人は、きっと〝心の病〟に犯されているんですよね?」
「っ、ここ、ろ……?」
丸雛が静かに呟く声が、響いた。
ハルは〝体〟が弱いから、それ関係の薬ばかりを飲んでいる。
それで見たことがないのならば、それは〝体〟ではなく〝心〟だ。
〝心〟なんて内側のことだから、そう簡単に知ることは出来ない。
(ハルがいくら調べ尽くしてもわからない筈だ)
だって心は目には見えない。
分かることすら、調べることすら難しい。
「だから、俺は貴方に聞きたい。
ーー小鳥遊は、過去に一体何があったのですか?」
ハルやアキに身に覚えがないのを見ると、恐らくこいつらが産まれる前か物心つく前に起こったことが関係しているように思える。
「一体、あなた方家族には……
ーーーー〝何が〟起こったのですか?」
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