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「ーーふむ、成る程」 シィ……ンと静まり返った空間の中、平坦な社長の声が響いた。 「確かに筋は通っているな。さっき聞いたハルの話より、大分深いところまで突いてきている」 顎に手を当てて目を閉じ、考えるような仕草をする。 「だがーー」 「っ、」 「まだ、甘いなぁ」 ポツリと呟いて開いた目には、冷たい光か宿っていた。 「龍ヶ崎もまた、私が拒否したら会社の圧がかかってくるのだろうか?」 「ーーっ、まだ」 「〝まだ〟? まさか、この場において〝まだ決断しきれていない〟なんてことを言うのか?」 「ちがっ、俺はそんなもんには頼りたくないと、拒否しただけだ」 手を差し伸べてくれた、優しい親父とお袋。 だが、自分のモノを取り返しに行くのに親の力なんか借りていては元も子もないと、拒否した。 (俺は、ちゃんと自分の手で……こいつを手に入れたい) 「ハッ、本当に随分と丸くなったものだレイヤくん。 昔の君だったら惜しみなく龍ヶ崎の権力を行使しただろうに」 「貴方は、いつまでそうやってひとりで戦い続けるのですか」 今回龍ヶ崎を婚約者に選んだのは、何かしらの変化が欲しかったから。そうだろ? その待ち望んでいた変化は、まさに今起こっている筈。 それなのに、どうしてまだその変化を拒否する? 一体…何がーー 「あぁ。まだ、まだ〝足りない〟んだよ。レイヤくん」 「は………?」 「まったく…君がここまで丸くなったのは本当に予想外だったな」 「これは誤算だった」と社長は天井を仰ぎ大きくため息を吐いた。 「まぁ、ここで君が龍ヶ崎の権力を使っていても、私は拒否するのだがな」 「? おい、どういう意味dーー」 「月森、龍ヶ崎へ電話を繋いでくれ。 ーーーー小鳥遊との婚約は、〝破棄〟だ」 「っ、な!!」 「そんな…待ってください!」 「一体どうして」 「ハル。 お前も、次の学園へ編入手続きをしよう」 「ぇーー」 「もう目星はいくつかある。既に学園内の環境の事も熟知済みだ。丁度帰ってきているんだ、このまま次の所へ向かおうか」 「ぅ…そ………」 「っ、その様な事、ハル様の思いに反する!そんな事、絶対にさせぬーー」 「ミナト」 「な、叔父さ、ん……」 スッと行く手を阻む様にして、小鳥遊の月森が間に入った。 「悪いね。 私の主人には、これ以上お前を近づけさせられないよ」 「ーーっ!」 それぞれの抱えていたものが一気に熱を帯び ザワザワと、あたりで一斉に弾け始める。 「アキ」 「!!」 「っ、父…さ、ん………」 ハッと前を見ると、目の前には社長が立っていた。 思わずアキを背中に隠す。 「アキ。こちらへ来るんだ」 「そ…んな……」 あちら側へ行ったら、今度こそ俺はどうなるの……? そんな事を訴えられる様にぎゅぅぅっと背中の服を握り締められ、ギリッと奥歯を噛みしめる。 「アキ、龍ヶ崎との婚約は破棄した。もう赤の他人だ」 「っ、でも」 「ーー龍ヶ崎が、どうなってもいいのか?」 「っ!!」 「っ、お前!」 スルリと、痛いほど掴まれていた背中の感触が無くなった。 振り返ると、震えながら目に涙を浮かべて笑ってるアキがいて。 「おい、やめろ………」 「レイ……っ」 「やめろっつってんだろうが!!」 「~~っ、でも………」 こいつの考えてることが、手に取るように分かる。 (そんなのは、絶対ぇ嫌だ) やっと……やっと〝アキ〟としてのこいつと出会うことができたのに。 それなのに、どうして別れなきゃなんねぇんだよ! こんなのは、おかしすぎる。 ーーーー俺は一体…どこで間違ったんだ……? 「………さぁ、もういいだろうか?」 カツンと、社長の靴が重く響いた。 「アキ。こちらへ来なさい」 「ーーっ、は……ぃ………」 拳が白くなるくらいにネックレスの石を握り締め、あいつが一歩踏み出す。 「っ、おい……やめろ」 「レイ、ヤ…っ、迎えにきてくれて、本当に嬉しかっ………」 「アキ!!」 もう、俺には何も残っていないのに それでも必死に遠ざかって行くアキの手を掴む。 「っ、レイヤ…はなして」 「絶対ぇ嫌だ、俺はーー」 バタンッ!! 「ーーーーよぉ、楽しそうな事してんじゃねぇか」

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