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「〝病院へ通いたい〟と仰ったのは、奥様でした」 『私、多分医者を頼った方がいいと思うの。もう自分だけじゃどうしようもできない。これ以上アキが大きくなる前に、早く…早くどうにかしたいのよ……っ』 アキ様はどんどん成長しているのに全くもって受け入れられない自分の心に、ご自身で驚いてらっしゃるようだった。 社長も、心という目には見えず手にも触れることが出来ないそれを、どう扱えばいいのかわからず途方にくれていた。 そんな時、親族からパーティーの申し出があった。 『小鳥遊のこれまでの成長の話を是非伺いたいという者が、外部に多くいらっしゃる。小鳥遊の今後の為にも1度ここで盛大にもてなしておいた方がいいのではないか?』 はっきり言って、そのような成功話…儲け話を聞きたがる会社など捨て置いたほうがましだ。 だが、そのような事をすれば親族が反発し…結果どうなるかわからない。 結局『今回だけだ』と言い放ち、創立記念とハル様の誕生日も兼ねての立食パーティーを行う事にした。 「そこで、ある方と出会いました」 過去に取り引きをした企業などを招待したが、その中に一際面白い人物がいた。 『ねぇ月森。 〝外部からの刺激〟を受けたなら、我々はどう反応するんだろうか』 『……〝龍ヶ崎〟でしょうか』 『あぁ、そうだね』 私が奥様と共に社長の元を離れた間、社長は龍ヶ崎の現社長と話をしたのだという。 どういうやり取りをしたのかは知らないが、恐らく有意義な時間だったのだろう。 『実に私とよく似ていて、だが決定的な部分が違う男だった。そんな龍ヶ崎から受ける刺激は、恐らく悪いものではなく良いもののような気がするんだ。 ーーあぁ、外部を頼るなんて、まさか私がこんな事を言うようになるとはな……』 疲れたように背凭れにもたれかかって、ゆっくりとため息を吐く。 最近、奥様のアキ様に対する態度はますます冷たいものになっていた。 奥様からアキ様への態度は勿論だが、社長がアキ様を可愛がる事にも反発してしまうようになっていたのだ。 そして社長が無理矢理にでも近づこうとするとアキ様に泣かれ、それを見ているハル様にも精神的な不可をかけてしまって…… もう、八方塞がりの状態だった。 『愛する者の壊れる様を見るのは、辛いものだな』 『っ、』 『なぁ月森。私は、フユミに沢山のものを貰ったんだ。この内向的な冷たい一族しか知らなかった私のモノクロな心を、彼女が優しく彩ってくれた。驚くほど世界が変わったんだ。 私に愛と言うものを教えてくれたのは、紛れもなくフユミだった。そして、そんなフユミとの間に生まれたハルとアキもまた、フユミと同じくらいに愛おしい。 私は、そんな彼らに何をしてやることができるのだろうか』 このバラバラになってしまった家族を、一体どうすれば…幸せな形へ持っていくことが出来るのだろうかーー 『……なぁんて、ね。私も疲れているな、ははっ。 龍ヶ崎は、そうだな……謂わば〝運試し〟のようなものだ。彼と話したあの〝やり取り〟を互いに覚えているのならば、いずれまた何処かで交わるだろう』 『さぁ、パーティーの反省会は終わりだ、また明日』と出ていく社長の背を、静かに見守る事しか出来なかった。 「私は屋敷を訪れる度、ハル様とアキ様のご様子が気がかりで陰ながら見守っておりました」 会社で社長から聞かされる屋敷の事、毎日屋敷へ行っているわけでは無かったから本当に心配していた。 奥様には社長が付いている。だがアキ様には?誰もいないではないか。幼いのに大丈夫なのだろうか…どの様な表情をされているのだろうか…… だが、屋敷でハル様と一緒に内緒で遊んでいる姿や病気のハル様に必死に寄り添う様子、遊び疲れて仲良く眠っている場面などに遭遇し、とても安堵したのを覚えている。 (あぁ、双子とは素晴らしいものなのだな……) ハル様は、どんなに奥様達に世話されようともアキ様のことが大好きで。 アキ様もまた、ハル様のことが大好きなご様子だった。 互いが、互いを支え合っている。 ハル様とアキ様が双子で良かったのかもしれない。 恐らく、社長も同じことを考えている筈だ。 〝アキにはハルが付いている〟と。 だから社長は、お2人を見守りながらも奥様の元にいらっしゃるのか。 奥様は、本当におひとりだから。 (ねぇ、奥様) ハル様もアキ様もこんなに可愛らしいですよ。 本当に仲良しな兄弟です。貴女もご存知でしょう? お2人とも、待ってらっしゃいますよ。 両手を広げた貴女に抱きしめられるのを ずっとずっとーーーー 「そしてそのまま月日が流れたある日、社長が〝あるもの〟を2つ小脇に抱え、外出先から帰ってまいりました」 クスリと笑って、私はハル様とアキ様の膝の上にある〝ぬいぐるみ〟を見た。

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